第2012話 文化祭と提督2(2)
「ん? ああ、春野か。ありがとな。お前も似合ってるぜ。で、どうしたんだ。お前は確か魔王城の魔物役のはずだろ」
「最初のお客様が先ほど受付をなされたので、お知らせをと思いまして。帰城さん、頑張ってくださいね」
「そうか。分かった。ああ、しっかりやるよ」
「ではお願いします」
海公はそれだけ言うと帰って行った。影人は適度に気合を入れると、勇者、または勇者一行の到着を待った。
そして、数十分後。ガラッと「暗闇の図書館」のドアが開かれた。足音は1人ではなく複数人分聞こえた。
「くくっ・・・・・・よくぞ来たな。ようこそ、勇者たちよ。魔王軍四天王最強と謳われるこの我・・・・・・メイジ・オブ・マスクの棲まう『暗闇の図書館』へ。せいぜい、歓迎しようではないか」
一瞬で役に成り切った前髪、もといメイジ・オブ・マスクはバッと勢いよく振り返った。格好をつけるため、ずっと背中を向けて立っていたマスクである。影人はマスクの下から、記念すべき初めての勇者たちを見つめた。
「わあ! 格好いいね帰城くん!」
「ちょっとダメよ陽華。ここにいるのは帰城くんじゃなくて、魔王軍四天王最強のメイジ・オブ・マスクなんだから。私たちは勇者。設定は大事よ」
影人の視線の先にいたのは、それはそれは見知った顔だった。現れた最初の勇者たちは、風洛高校が誇る名物コンビ。朝宮陽華と月下明夜だった。
「・・・・・・帰れ」
陽華と明夜の姿を見た影人は、疲れ切った様子でただ一言2人にそう告げた。
「え!? な、何で!?」
「何でもクソもあるか。RPGにガチモンの勇者が来てるんじゃねえ。ほら、俺を倒した証はやるからさっさと魔王城に行ってこい」
驚く陽華に素に戻った前髪野郎がしっしっと手で追い払う仕草をする。そして、影人は机の上に置いていた、メイジ・オブ・マスクの紋様が描かれた段ボールバッジを2つ手に取った。
「ちょっと帰城くん。それはないんじゃない。私たちは友達だけど、れっきとしたお客よ。帰城くんなら私の言いたい事、分かるわよね?」
だが、明夜はムッとした顔で影人にそう反論する。明夜にそう言われた影人は、最初苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていたが、やがて大きくため息を吐いた。
「・・・・・・まず1つ訂正するが、俺とお前らは友達じゃない。そこだけは絶対だ。・・・・・・ああ、ちくしょう。分かったよ。お前の言う通りだ。お前らは客で俺はキャスト。なら、どんな奴が相手だって仕事はしねえとな」
影人はそう言うと気持ちを切り替えた。そして、その口元に不敵な笑みを浮かべた。
「では、改めて名乗ろうぞ。我の名はメイジ・オブ・マスク。魔王軍四天王の1人である。勇者たちよ。まずは称賛しよう。他の3人の四天王を倒し、この我の元に辿り着いたその実力を。しかし、貴様らの快進撃もここまでだ。我は四天王最強。貴様たちに死という敗北をプレゼントしてやろう!」
「いや、私たちは負けないよ! だって勇者だから!」
「四天王最強、望むところよ。メイジ・オブ・マスク。あなたを倒して、私たちは魔王の元へと進むわ! いざ勝負!」
悪の魔法使いの役に成り切った影人の言葉に、陽華と明夜も勇者として応える。影人は「その意気やよし」と笑うと、机に懐から取り出したカードの束を置いた。




