第2008話 文化祭と提督1(2)
「な、何で仮病で休まれたんですか・・・・・・?」
恐る恐るといった様子で海公が口を開く。影人のことだ。きっと何か止むに止まれぬ事情や、深い理由があったに違いない。前髪野郎に憧れの感情を持っているという酔狂な面を持つ海公はそう思った。
「俺は孤独で孤高の一匹狼だからな。多少の集団行動なら合わせるが、2日3日の集団行動は俺の孤独で孤高なマイハートが耐えられねえんだ。だから、自主的に休んだ」
しかし、バカの中のバカ、キングオブバカの前髪野郎の答えはそのようなものだった。ある意味予想通りである。行動原理が常人には到底理解できない。
「でもまあ、楽しかったぜ。俺が休んだのは1日だけで次の日から登校したんだが、みんなは修学旅行に行ってるだろ。だから、適当に自習したら昼には帰っていいって言われてよ。午後から遊び三昧だ。正直、天国だったぜ。ははっ」
頭のネジが完全にどうかしている前髪モンスターが笑い声を上げる。なぜ笑うんだいと真顔で言いたいところだが、相手は前髪野郎。話の通じぬモンスターである。何を言っても無駄である。
「そ、そうですか。さ、さすが帰城さんですね・・・・・・」
普段は前髪野郎を尊敬している聖人の海公でさえも、少し引いた顔を浮かべていた。
「じゃ、じゃあ帰城さんはその・・・・・・今年も修学旅行には参加されないんですか? だとしたら、帰城さんには申し訳ないですけど、少し、いやかなり寂しいですね・・・・・・」
「あー・・・・・・そうだな。今年の修学旅行も行く気は正直ない。悪いな春野。こればっかりは俺の信条みたいなもんなんだ」
酷く残念そうな顔になる海公に、さすがの前髪モンスターも申し訳なさそうにそう言った。どうやら、この世の中には修学旅行に参加しない信条というものがあるらしい。全く、世界は広い(遠い目)。
「そ、そうですか・・・・・・残念ですけど、それが帰城さんの信条なら仕方ないですね」
「重ねて悪いな。だがまあ、俺の事は気にするな。お前は友達と修学旅行をしっかり楽しんでこい。まだ先だが、その時は土産話を聞かせてくれよ」
「・・・・・・はい。分かりました」
海公はまだどこか寂しそうな様子だったが、小さく笑うと影人にボールを投げた。
た。
「あー、お前ら。秋はお前らにとっては楽しいイベントが、私にとってはクソ面倒くさいイベントがてんこ盛りだ。本当、死なねえかなこの季節・・・・・・」
6限目はホームルームの時間だった。2年7組の担任教師、榊原紫織は気怠げに教卓に立ち、心の底から面倒くさそうな顔を浮かべていた。
「あはは。先生ー、ぶっちゃけ過ぎー」
「先生ってよく先生になれたよなー」
紫織の言葉に生徒たちが笑い声を上げる。半年の付き合いで、生徒たちも紫織がどんな教師なのかは理解していた。そして、2年7組の生徒たちは、先生らしからぬ態度の紫織の事が嫌いではなかった。




