第2006話 前髪野郎と光の女神4(4)
「もう遅いわ! これで・・・・・・終わりよ!」
明夜が渾身のシュートを放つ。明夜の放ったシュートは綺麗にゴールの斜め右に向かって軌道を描く。シュートコースとしてはほとんど完璧だ。
「舐めるなよ! 今度は決めさせねえぞ!」
だが、影人にもパチモンの円◯守としての意地があるのか、手を伸ばし奇跡的に明夜のシュートを受け止める事に成功した。
「っ、私たちの友情シュートが!?」
「カウンターだ! 会長!」
まさか、ヘボキーパーである前髪野郎にシュートを止められると思っていなかった明夜が驚いた様子になる。影人はすぐさま前線にいる真夏に向かってボールを投げた。
「よくやったわ帰城くん! いや、円◯守! 後はこの豪◯寺修也に任せなさい!」
ボールを受け取った真夏が一気に攻勢をかける。青チームのディフェンスは、今のところ活躍なしのへっぽこディフェンダーであるキベリアだけだ。勝てる。真夏はそう確信した。
「小娘が・・・・・・舐めんるんじゃないわよ!」
だが、キベリアは自分の全ての力を振り絞り、真夏に向かってスライディングをした。
「なっ!?」
キベリアの必死のスライディングは成功し、ボールが真夏の足元を離れる。まさか、キベリアがスライディングをしてくると思わなかった真夏が驚いた声を漏らす。ボールはそのままラインの外に出る――
「まだです!」
――かに思われたが、ソレイユが脅威的なスピードで駆け、そのボールを拾った。ソレイユはそのままドリブルを行うと、シュート圏内へと至った。
「やらせるか!」
レイゼロールがソレイユに追いつき、ボールを奪おうと足を伸ばす。
「はぁっ!」
だが、その前にソレイユはシュートを放った。ソレイユのシュートはゴール左斜め上に吸い込まれるように進んでいった。ソレイユのシュートは威力も申し分なく、ほとんど決まると思われた。
「絶対に守り切る!」
しかし、流石は青チームのゴールキーパー、完璧イケメン香乃宮光司だ。光司は脅威的な反応速度を見せ、ジャンプして手を伸ばした。
「くっ!?」
片手だけ、更にはソレイユのシュートの威力もあり、光司はボールをキャッチする事が出来なかった。ボールは光司の手に弾かれた。
だが、ゴールを守る事は出来た。ここからカウンターを仕掛け、得点する。青チームのメンバーがそう考えた時、
「――はっ、別にサッカーはキーパーがゴールしてもいいんだぜ!」
そんな声と共に、いつの間にか敵陣へと駆け上がっていた影人が、光司が弾いたボールをキープしていた。
「「「「「っ!?」」」」」
その光景に青チーム全員が驚愕した顔を浮かべる。影人がいる位置は既にシュート圏内だ。
「決まりだッ!」
影人は右足を振り抜きシュートを放った。影人のシュートはソレイユのシュートほどの威力はなかった。だが、十分にシュートとしての威力は持っていた。加えて、光司はボールを弾いた直後で身動きが取れない。
結果、影人の放ったシュートは青チームのゴールを穿った。
「はっ・・・・・・信頼がお前たちだけの武器だと思うなよ。名物コンビ」
「・・・・・・ゴール。赤チームに1点追加です」
シュートを決めた影人がドヤ顔を浮かべそう呟く。イズは露骨につまらなさそうな顔になりながらも、そうアナウンスを行った。
「影人!」
ソレイユが影人の元に駆けつける。ソレイユは弾けるような笑顔でスッと手を掲げた。
「おう」
影人も笑みを浮かべると、自身の手でソレイユの手を叩く。パンというハイタッチの音が軽快に響いた。
「――うーん! やっぱり勝つのは気分がいいですね! レールのあの悔しそうな顔ときたら・・・・・・ふふっ傑作でしたね」
「お前中々いい性格してるよな。でも・・・・・・くくっ、同意するぜ」
夕暮れに染まった道を歩きながら、ソレイユと影人がそんな言葉を交わす。ソレイユは満足したような、スッキリとしたような顔で笑い、影人も口元を緩めていた。
結局というべきか、サッカー対決は、最終的に3対2で影人たちの赤チームが勝利した。影人が得点を決めた後、赤チームと青チームの必死の攻防があったが、何とか赤チームが最後までリードする事が出来たのだ。勝った赤チームは当然喜び、負けた青チームは悔しがった。何だかんだ、再び再戦の約束をしつつ、皆は解散した。そのため、今は影人とソレイユの2人だけしかいなかった。
「シェルディアと出会った時はどうなる事かと思いましたが・・・・・・とても楽しかったです。こんなに楽しいと思えた日は本当に久しぶりです。影人、今日はありがとうございました。私はこの日の事を忘れません」
「礼なら俺じゃなく嬢ちゃんとか他の奴らに言えよ。別に俺は何にもしてねえよ」
礼の言葉を述べてくるソレイユに、影人はかぶりを振った。確かに、シェルディアに言われて暁理やイズ経由で、仕方なく光司、陽華や明夜を集めはした。真夏やロゼも、陽華と明夜経由で集まってもらった。ソレイユが礼を述べる対象は、影人などではなく集まってくれた者たちだ。
「いいえ。それは違いますよ。あなたが今日まで絆を紡いできてくれたからこそ、今日という素晴らしい日になったんです。だから、あなたは何もしていなくありませんよ」
しかし、ソレイユは首を横に振った。ソレイユは暖かで優しい表情でそう言った。
「・・・・・・お前バカか? 俺が、この俺が絆を紡いできたわけねえだろ。あり得ん。的外れもいいところだ」
「バカではありませんよ。失礼ですね。全く、あなたは本当に素直じゃありませんね。こういう時くらい捻くれる事をやめればいいのに」
「俺はいつだって素直だ。捻くれた事なんざ1度もねえよ」
呆れ切った顔のソレイユに影人は早速捻くれた言葉を返した。
「この世で1番分かりやすい嘘ですね。ふふっ」
「何笑ってんだよ」
思わず笑うソレイユに影人がムッとした顔になッた。
「ふふっ、ねえ影人」
「・・・・・・何だよ」
「本当に今日はありがとうね。私、嬉しかったわ。あなたと、みんなと一緒に遊べた事が。・・・・・・ねえ、影人。また遊びましょうね。約束よ」
「勝手に約束を結ぶなよ。・・・・・・ったく、仕方ねえな。ああ、いいぜ。約束だ」
素の口調でそう言いながら、ソレイユが右の拳を軽く突き出してくる。影人はフッと笑うと、コツンと自身の右の拳をソレイユの拳にぶつけた。
「でも、次は体を動かさない方法で遊びてえな。絶対明日筋肉痛コースだぜ、こりゃ」
「情けないですね。それでもスプリガンですか。でも、そうですね。じゃあ、次は――」
影人が不安そうにそう呟き、ソレイユがそう言葉を返す。もう一組の名物コンビは会話を交わしながら、夕暮れの街の中へと消えていった。




