第2005話 前髪野郎と光の女神4(3)
「・・・・・・さあ、試合が再開しますよ。集中しましょう」
「ふふっ、そうだね」
影人は露骨にはぐらかした。何でもない様子を装っているが、影人の顔は少し赤くなっていた。影人の顔色に気がついたロゼは、満足そうにその顔を綻ばせた。
「大丈夫大丈夫! まだ同点! 次は私たちがゴールを決めればいいだけだよ!」
「速攻で点を取り返しましょう」
陽華と明夜は明るくそう言うと、コート中央に移動した。イズが試合再開の笛を鳴らし、明夜が陽華にパスを出す。
「絶対に勝つ!」
陽華が素早いドリブルを行う。その速さはまさに疾風だ。陽華は矢の如く真っ直ぐに敵陣を突っ切らんとした。
「それはこちらのセリフですよ、陽華!」
だが、陽華の前にソレイユが立ち塞がる。ソレイユは陽華のボールを奪おうと激しくプレスをかけた。
「くっ、やりますねソレイユ様!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ陽華!」
陽華はソレイユを抜こうと、ソレイユは陽華からボールを奪おうと激しくせめぎ合う。陽華もソレイユも互いに運動は得意なタイプだ。結果、両者のせめぎ合いは一進一退の攻防となった。
「陽華!」
「ソレイユ!」
陽華を助けようと明夜が、ソレイユを助けようとラルバが駆ける。陽華は明夜にパスを出したかったが、ラルバがいるためパスが通る可能性は低い。
「っ、キベリアさん!」
やむを得ず、陽華は後方のキベリアに一旦ボールを戻した。
「ちょ、私に渡すんじゃないわよ! レイゼロール様!」
キベリアは来たボールをすぐさまレイゼロールにパスした。キベリアからパスを受けたレイゼロールは、ドリブルで敵陣へと駆け上がる。
「ふっ!」
「ちっ」
しかし、ロゼがレイゼロールを阻む。レイゼロールはボールをキープすると、素早く周囲に目を奔らせた。
「レイゼロール!」
陽華がレイゼロールの名を呼ぶ。陽華はソレイユにマークされていたが、パスを促して来た。ソレイユにマークされている状態で陽華にパスを出すのは得策ではない。ソレイユにボールを取られる可能性が高いからだ。
だが、陽華の目には自信の色が確かにあった。ソレイユにボールは取られない。だから、パスを出して欲しい。陽華の目はレイゼロールにそう訴えかけていた。
「・・・・・・いいだろう。やれるものならやってみろ」
レイゼロールは陽華に向かってパスを出した。別に陽華を信じたわけではない。このパスはあくまで先ほどのアシストの礼だ。レイゼロールは内心でそう考えた。
「っ、ありがとう!」
「舐めないでください!」
陽華とソレイユがボールに向かって同時に動く。陽華とソレイユは、互いに先にボールに触れようと足を伸ばした。
「よし! 明夜!」
「くっ!?」
結果、僅差でボールに触れたのは陽華だった。陽華はそのままボールを左サイドに向かって蹴った。
「ナイスパス!」
すると、陽華が駆けたと同時に走り出していた明夜がそのボールをトラップした。
陽華は明夜ならば走ってくれると信じていた。明夜は陽華ならば自分にパスを出してくれると信じていた。小さな頃から培ってきた幼馴染としての信頼。その結果が、このパスだった。以心伝心のコンビネーションがチャンスを作る。
「っ、しまった!」
明夜をマークしていたラルバが一瞬出遅れる。しかし、既に明夜はシュート圏内にいた。




