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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第2話 謎の男スプリガン(2)

「よーし、んじゃ終わりね」

 担任の女性教諭が面倒くさそうに終業の言葉を放った。

 生徒たちは次々と自分の机を教室の前方に押していくと、各々の放課後に突入した。

 影人も今日は掃除当番ではないし、部活動も何もやっていないため、さっさと学校を出て帰路につこうとした。正門を出たところでふとスマホを出して時刻を確認してみると、まだ4時すぎだ。帰りに本屋でも寄っていこうかと、影人が何とはなしに考えていた時、影人の後方から二人の少女が風のように過ぎ去っていった。

 嫌な予感がしながら、たった今全速力で走っている少女たちを見てみると、やはりというべきか、陽華と明夜であった。ただ、なぜか二人はとても真剣な表情をしている。

「・・・・・・・・・」

 その光景を影人は何度か見たことがある。それはちょうど一ヶ月ほど前からだ。嫌な予感が確信に変わった影人は次に何が起こるであろうか容易に想像できた。

『影人、すみませんが今回もお願いします』

「・・・・・最悪だ」

 脳内に直接響いた謎の声の言葉を聞いた影人はげんなりとした顔で呟いた。

『ひどいですね、影人。そんなに私の声が聞きたくありませんか?』

「二度と聞きたくないな」

『あらあら、つれませんね。それはそうと、早くあの子たちを追ってください。今回の現場は近いですからテレポーテーションは使いません』

「クソ女神っ!」

 影人は悪態をつくと、陽華と明夜の後を追った。







「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

陽華と明夜を追った影人はとある公園に辿り着いた。影人自身、体力が平均以下ということもあるが、二人が速すぎるためついて行くのもやっとだ。おまけに、こちらはばれないように二人を追わなければいけないときている。

「さて・・・・・状況は」

 息を整えながら、大きな木に隠れながら公園の様子を窺う。普通、平日の夕方なら子どもの一人や二人なら必ずいるものだが、今は誰もいない。いや、いたとしてもきっと《《アレ》》から逃げたのだろう。

「グゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァッ!」

 公園の中央、獣のような声を上げながらそれはいた。

 血走った目に、逆立った髪。その体は筋肉で膨れ上がり、皮膚は黒く変色している。およそ、5メートルはあるであろうその姿はまさに怪物。人ならざる者だった。

「まるでどでかいゴリラだな・・・・・」

 影人がその怪物のような存在を見るのはこれが初めてではない。今までにも何度かこうやって物陰から様子を見ていた。

 そしてふとその怪物の傍らを見ると、そこには一人の女がいた。

 西洋風の黒の喪服をまといこの距離からでもわかる美しい白髪の持ち主である。その姿はまるで死神のようだ。

「・・・・・また貴様らか。ソレイユの犬どもよ」

 その美しい声から敵意しか感じられないような口調で謎の女性はそう吐き捨てた。そう、そこにいたのは怪物とこの女性だけではなかった。

「うん。私たちは、あなたがこんなことをやめるまで、何度だってあなたの前に立ち塞がる」

「ええ。それがソレイユ様との約束だから」

 しっかりとした声で少女たちは死神のような女性に宣言した。その少女たちは風洛高校の名物コンビ、朝宮陽華と月下明夜であった。

「・・・・・・相変わらずのお人好しだな」

『ふふっ、それがあの二人の素晴らしいところではありませんか』

「お前は黙ってろ」

 自分の独り言に返事を返してくる声にそう言い返すと、影人はその長すぎる前髪の隙間から目を細めさらに集中して、公園中央の状況を見守った。

「では、今日こそ我の前から消えろ・・・・!」

 死神のような女性が苛立たしげに言うと、それが合図かのように化け物が陽華と明夜に襲いかかった。

「明夜!」「陽華!」二人はお互いを素早く見合うと、陽華は自分の右腕に装着していた赤の宝石がついたブレスレットを、明夜は自分の左腕に装着していた青の宝石がついたブレスレット空に掲げた。


「「光よ! 私たちに力を!!」」


 二人がそう叫ぶと、突如二人を中心に光が満ちた。拳を振り上げていた怪物は眩しそうに目を細め、思わずその丸太のような腕で顔を隠した。

 そして次の瞬間、光が収まったかと思うとそこには、先ほどとは衣装の違う陽華と明夜が存在していた。

 陽華は、赤やピンク、橙色などの暖色を基調としたコスチュームを纏っており、両手にはガントレットを装着している。

 明夜は、青や水色、紫色といった寒色を基調としたコスチュームに、右手には杖のような物を持っている。

「逆巻く炎は正義を示す! 悪いやつは殴って戻す! 光導姫こうどうきレッドシャインッ!」

 と、突如陽華は何やらかっこよさげなポーズを決めると、キメ顔でそう名乗った。すると、明夜も陽華のポーズと対になるようなポーズを決め名乗りを上げた。

「神秘の水は慈愛を示す! 悪い子は魔法でおしおき! 光導姫こうどうきブルーシャインッ!」


「だっせー・・・・・・・」

 二人がキメている姿を見ていた影人は思わず本音を口にした。

 なんだか、今にも二人の後ろが無意味に爆発しそうである。というか、こういうときに思うのだが、なぜ敵はこの間に攻撃しないのか。どう見ても隙だらけである。おい、ゴリラ。なに真面目そうな顔で唸ってるんだ。横の死神風の女もなんで見ているだけなんだ。彼、彼女らはアホなのであろうか。

『まったく、影人はわかっていませんね。これは俗に言うお約束というやつです』

「うるせぇ。というか、脳内にテレパシー飛ばしてくんな。慣れないんだよ」

 この声が聞こえるようになったのは、約1ヶ月ほど前からだが、全く慣れない。というか、この本来あり得ないような光景を見るきっかけになったのも全てこいつが原因だ。浅い川で溺れて死ねばいいのに。

『あらあら、ずいぶんと嫌われてしまいましたね。仮にも女神である私にそこまで言うのは、世界広しといえどあなただけですよ影人』

「だから、俺の思考を勝手に読むんじゃねーよ」

 影人はそこで会話をやめ、再び変身した陽華と明夜に意識を戻した。1ヶ月前から学業の他に一つ仕事が増えたのだが、それは非常に厄介なものだった。

 その仕事というのが、朝宮陽華と月下明夜を陰から見守り、ピンチにおちいれば助けるというものである。影人も本来はこのような面倒事はすこぶる嫌だったのだが、どこぞの女神から強引にこの役目を押し付けられた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 見ると、変身した二人と化け物の戦闘も陽華と明夜が優勢のようだった。陽華が浄化の力を宿したガントレットで、目にも止まらぬ速さで化け物の腹部に拳を叩き込んでいる。

「グッ・・・・・ァァァァァァァァァァ!」

 化け物もふところに潜り込んでいる陽華に反撃しようと両拳をハンマーのようにしてたたき落とそうとするが、それは振り下ろされることはなかった。

「させない!」

 明夜が杖を振るうと浄化の力を宿した魔法が発動し、突如地面から氷柱つららが生え化け物の腕をめがけて急速に伸びた。そして氷柱は化け物の拳に触れるとその拳を凍らせた。地面から生えた氷柱によって拳を凍らせられた化け物は、両腕の動きを封じられた。

「サンキュ! 明夜!」

「ええ、陽華! そろそろ決めるわよッ!」

 陽華が素早く後方にいた明夜と合流すると、二人は何やら頷きあった。

「・・・・・どうやら今回も大丈夫そうだな」

 影人はそう独りごちながら、念のためにと鞄から取り出していた黒の宝石がついたペンデュラムを見た。まあ、これにはある不思議パワーがあるのだが、影人はまだ一度もその力を使ったことがなかった。

『ええ、だと・・・・・いいんですが』

「何だよ? もうあいつら必殺技やる気だぞ。後は必殺技であのゴリラ倒して、後ろのレイゼロールが退いて終わりだろ。今までだってそうだったじゃねえか」

 弱った化け物に必殺技を撃って終わり。そして、黒の喪服を纏った女レイゼロールが退く。それは、影人が今までに何度か目にしている光景だった。

『・・・・・・・何か、何か嫌な予感がするんです』

「考えすぎだろ。一応、あいつら歴代でも最高の潜在能力を秘めた光導姫なんだろ?杞憂だ、杞憂」

 もし、第三者がいれば影人が一人で喋っているような状況にしか見えないだろう。そして関わってはいけない人物と思われるまでがセットである。

「「汝の闇を我らが光へ導く――」」

 そして二人が決着をつけようと詠唱を開始した。それ見たことか。影人がそう思った時、レイゼロールがニヤリと笑みを浮かべた。

「この時を待っていた――」

 するとレイゼロールは化け物に触れた。すると、化け物は両腕を氷柱に固定されたまま、大きく息を吸った。そして、それを身も竦みそうな雄叫びに変えた。


「グゥゥゥゥゥゥゥゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


「やべっ!」

 その動作からゴリラのような怪物の行動を予測していた影人は、なんとか耳を防ぐことに成功した。だが、それでもとてつもな騒音だ。鼓膜が破れそうである。それでも耳を防ぎながら数秒耐えると化け物の身の毛もよだつ咆哮は集束した。

「くそ、何て騒音だよ・・・・・」

 影人が視線を再び公園中央に戻すと、先ほどまでの状況は一変していた。

「ふふ・・・・・・毎度同じ大技を見せられれば対策くらいする」

 見ると、レイゼロールが不気味な笑みを浮かべながら話始めた。怪物も先ほどの咆哮の騒音で氷を砕くことに成功したようだ。突如としてドラミングを始めだした。

「こやつの咆哮を直接聞いた者は、しばらく金縛りにあったように動けん。つまり、お前たち二人は今日で終わりだ」

 レイゼロールはゴソゴソと左耳から何かを取り出した。どうやらそれは耳栓らしい。敵のボスが耳栓って。と生真面目に影人は思ってしまったが、現実はかなりピンチだ。

 レイゼロールの言葉通り、陽華と明夜は直立不動でその場から動いていない。いや動けない。「くっそ・・・・体が!」「竦んだみたいに・・・・!」二人とも声は出せるようだがそれだけだ。

 そして、二人に向かって怪物がドシンドシンと足音を鳴らして近づいていく。そして二人の前で止まると、陽華に狙いを定めて両手を組み合わせた腕を振り上げた。

「やれ」

 レイゼロールが無慈悲に化け物に命令を下す。数秒後、そこにはぺちゃんこにひしゃげた死体があることは想像するに容易い。

「よ、陽華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 明夜が感情のままに叫ぶ。だが、当の陽華は呆然と怪物を見上げるだけだ。次の瞬間に死が迫っていることに、まだ16歳の少女は声を上げることすら出来ない。

影人えいと!』

「わかってる!」

 焦った声が影人の脳内に響く。だが、その声が聞こえる前に影人は行動に移っていた。

 右手に握っていたペンデュラムを正面にかざし、突き出した右手を左腕で支える。そして影人は一言こう呟いた。

変身チェンジ


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