第199話 触れてはならぬモノ(2)
(スプリガンとしての身体能力は俺側に持ち込めたが、能力は悪意の方に分離してるってわけか。まだましだが、圧倒的に不利なのは俺だな。つーか、現実じゃない精神世界での勝利条件はどうなるんだ?)
突発的に開始されたこの戦いの状況を影人は冷静に分析した。現在の影人にはスプリガンの身体能力がある。だが、力は使えない。状況を考えれば、それは分かる事だ。
そして、影人とは対照的に悪意はスプリガンの闇の力が使える。だが、先ほどの言葉から考えるに、身体能力は通常の人間と変わらないはずだ。しかし、この状況は影人が圧倒時に不利だ。
なぜなら、悪意の闇の力は全てに対応出来る力。影人には未だにできない身体能力の常態的強化も、回復も無詠唱も、悪意にはそれが使える。ゆえに、影人のスプリガン時の身体能力はないよりはましだが、大きなアドバンテージにはなり得ないのだ。
「おい悪意! これだけは教えろ! この世界での戦いの勝ち負けはどうやって着けるんだ!?」
それだけは結局分からなかったので、影人は鎖をアクロバティックに避けながら、悪意にそう問いただした。すると悪意は「簡単だ!」と言って、こう言葉を続けた。
「どちらかの意志が屈服した方が負け! それがここでの勝敗を決める! だから安心しろよ! ここでは、仮初の肉体が傷つこうが千切れようが死なないし負けねえ! ある意味不死身だ! さあさあ、分かったら楽しもうぜぇぇぇ!」
「イカれてやがる・・・・・・!」
心の底からの笑みを浮かべる悪意に、影人は忌々しそうにそう吐き捨てた。
「ははははははははははははははははははっ!! そいつはぁ、どうも!」
悪意の周囲から闇色の剣や短剣、さらには銃など様々な攻撃物が姿を現す。
悪意は更に闇で拳銃と日本刀を一振り創造して、それを両手で持った。その瞬間、悪意の全身から黒いオーラのようなものが揺蕩い始めた。闇による肉体の常態的強化を示すものだ。
「そうらぁ! いくぜッ!」
「っ・・・・・・・・・!」
影人は冷や汗をかきながら、集中力を最大に高めた。「ここでは意志が屈服した方が負け」悪意の言葉を思い出しながら、影人は意志を強く保ち、自分に向かってくる悪意に立ち向かった。
「む・・・・・・・こうやって見ていると、本当に綺麗な顔をしていますね」
影人が精神世界で悪意と戦いを繰り広げている中、神界で影人の肉体を見守っていたソレイユはそんな言葉を漏らした。
今の影人は精神世界へと意識を飛ばしているため、現実世界ではまるで意識を失ったように、それこそ眠っているような感じだ。ソレイユはそんな影人を横に寝かせて、膝枕をしていた。
なお、膝枕をしている理由は影人の頭をさすがに地べたに置くというのはどうなのか、とソレイユが思ったからだ。
なら、ソレイユが枕かクッションを創造すればよいのではないか、と影人が起きていれば絶対に言うだろう。テーブルやイスを創造できるのであれば、枕も出来るはずだと。
確かに、ソレイユにはそれが出来る。だがそれをしないという事は、要するにソレイユが膝枕をしている理由は建て前であった。
(ふふっ、普段は態度の悪いクソガキ・・・・・・こほんっ! 捻くれ者が、まさか私に膝枕をされているなんて、思ってもいないでしょうね。こっちに戻ってきた時の反応が楽しみです)
スプリガンの服装に身を包んだ影人を見つめながら、ソレイユはどこか意地悪そうに微笑んだ。




