第196話 対面(4)
「俺にはお前にはない知識がある。で、当たり前だが知識の出所まではお前には話さねえ。――で、その知識に当てはめて言うとな、お前は異常なんだよ」
悪意の表情が変わった。先ほどまでの人を食ったような態度はなりを潜め、悪意は難しそうな顔になりながら影人が異常であるという理由を話し始めた。
「人間の本質は光。これは決して変わらねえ。それはどんな大罪人でも、反吐の出るような邪悪に塗れた所業を行ってきたクズでもだ。人間は光の本質に分類されてんだよ。誤解のないように言っとくが、人間が光のように明るい希望がどうだこうだとか、性善説がどうのこうのとか、そんな理由で本質が光になったんじゃねえぞ? 人間の本質が光なのは、神々の庇護下にあることを示すため。つまりは神様たちがそう決めたんだよ。だがよ、お前は人間のはずなのに本質が闇だ。これは本来ならあり得ねえ。だからお前は異常ってわけだ」
「・・・・・・・・・・・?」
「まだ意味が分からねえって顔だな帰城影人。まあ、それもそうか。俺はあの図書館でお前の記憶や今までの知識や体験を覗いたが、ソレイユに力を授けられるまで、お前はごくごく普通の人生しか歩んでこなかったもんな。そりゃあ、いきなり本質がどうのこうのとかいった問題は分からねえか」
この広場を囲むように建っている建物の1つ、見慣れない図書館のような建物を指さしながら悪意はため息をついた。その顔には失望の色と諦めの色が浮かんでいた。
「まあ、いいさ。この事は忘れろよ。さて――ん? 何か言いたそうな顔だな?」
悪意が影人の方に視線を再び移すと、前髪の長い少年は口を真一文字に結び、ジッと悪意を見つめていた。前髪のせいで表情が死ぬほどわかりにくいが、悪意にはなんとなく影人が何かを言いたいことが分かった。
「・・・・・・・・あの図書館みたいな建物だけ見覚えがねえと思ったら、そういうことか。ここは俺の精神世界、ならあそこが俺の人生の記憶やらの閲覧所みたいなもんになるのか。・・・・・・・・・・・・・・つまり、お前にはあんなこんなの俺の恥ずかしい記憶を覗かれたってことだ。やめてよね、そんな事されたら僕が恥ずかしくて死んじゃうだろ」
「てめえ頭は大丈夫か? 何でこの雰囲気でいきなりボケてるんだよ。やっぱりどっかイカれてんのか?」
「やっぱりとはどういう了見だこの野郎。俺はいたって普通の男子高校生だ。ただ仕事はちょっと特殊だけどな。――出来るだけいつでもユーモアを。それが俺の座右の銘だ」
「平然と嘘をつくな。お前の図書館でお前の事を調べたときは、座右の銘なんかどこにも書いてなかったぞ。けっ、食えねえ野郎だ」
「お前には言われたくねえがな」
軽口のたたき合い、とは少し違うが、悪意と影人はいつの間にかそんな会話をしていた。いや、いつの間にかというか完全に、どこかの前髪野郎のふざけた返しがきっかけだった。だが、本人にはそんな自覚は一切無く、影人は再び口を開いた。




