第189話 己の内へと(1)
「しばらくここにって・・・・・・・・え、あのシェルディア様それってどういう・・・・・」
「そのままの意味よ。レイゼロールのところに戻らず、ここで私としばらく暮らしなさいってこと」
お茶をカップに注ぎながら、シェルディアはそう言った。その表情はニコニコとしており、シェルディアと付き合いのあるキベリアには、それが冗談ではなく本気で言っている事がよくわかった。
「いやシェルディア様! それはちょっと無茶というか無理じゃないですか!? このまま帰らなかったら私色々とまずいんです!」
キベリアは慌てふためいた。つい先ほどまで真剣に戦っていた人物とは、およそ想像がつかないほどの慌てぶりだ。
「ダメよ。もう決めたから」
だが、シェルディアは無情だった。優雅にお茶を飲みながらの即答だった。
(お、終わった・・・・・・・・・)
そしてキベリアはガクリと首を落とした。この瞬間、キベリアはしばらくシェルディアと共同生活をすることが確定した。
シェルディアは自分の欲望にとてつもなく従順だ。そのため、こうしたいと決めたらテコでも動かない。それがシェルディアだ。キベリアはその事をよーく知っていた。
(シェルディア様に逆らったら・・・・・・・・ああ、ダメだ。それは怖すぎる。というか下手したら私消されるかもしれない・・・・・・・)
闇人は浄化でしか死ぬという事はないが、シェルディアなら闇人を殺す事も出来るかもしれない。キベリアがそんな事を考えてしまう程、シェルディアは規格外の存在なのだ。
「シェルディア様のご命令なら私は従いますが・・・・・・・・差し当たって大きな問題が2つあります。まず、レイゼロール様への報告です。これだけは必ず行わなければなりません。ついでに、シェルディア様と暮らすという事情も。もう1つは、私の力、気配の問題です。この場所はシェルディア様が結界を張っているとの事なので、大丈夫のようですが、外に出れば再び私の気配はソレイユに察知されてしまいます。さすがに、ずっとこの部屋から出られないというのは・・・・・そのキツイです」
言葉を選び、少し長めにキベリアは問題点を話した。その他も細々《こまごま》とした問題はあるが、キベリアにとってこの2つの問題は解決しなければいけないものだった。
「うーん、そうねえ。1つ目の問題はレイゼロールに手紙を送ればいいだけだし、ちょっと面倒なのは2つ目ね。レイゼロールにあなたの力を封印してもらうのも時間がかかるし、封印したらしたらで力を解放するのも時間がかるし・・・・・・あ、そうだ!」
何かを思いついたような顔をしたシェルディア。すると、シェルディアは自分の影の中からとある腕輪のような物を取り出した。そして「はい」とそれをキベリアの方へと差し出してきた。
「? シェルディア様、これは・・・・・・・・?」
見たところ、それはただの銀の腕輪だった。いったいこれが何だというのか。




