第184話 掴んだ答え(4)
「ああ・・・・・・・・・・また」
綺麗に一礼をして風音もこの場から去った。残ったのは光司1人だけだ。
「スプリガン・・・・お前はいったい・・・・・」
光司もスプリガンに出会ったのは、これで2回目。その姿も、力も光司が見たのは2回目だ。たった2回。だというのに、なぜあの謎の怪人の事がこんなにも癪に障るのか。
「・・・・・・・・なぜなんだ」
どうしようもない苛立ちに襲われながら、光司はポツリとそう呟いた。
「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・」
魔法によって転移する事に成功したキベリアは、そこがどこなのかも分からずに、近くの民家の壁に寄りかかっていた。残りの魔力的にそんなに遠くへは転移出来なかったはずなので、ここはまだ東京都内のどこかだろうと予測だけはついていたが。
(魔力が空なのももちろんキツイけど、さっきから誤魔化してたダメージの方がキツイわね・・・・・・・)
箒を抱えながら、キベリアは顔を痛みによって顰めた。スプリガンの一撃一撃はとても重く、キベリアにとってそれは深刻なダメージと化していた。
「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・・これは内臓までイッてるわね」
黒い血を吐き出しながら、キベリアはそう分析した。血を吐き出すという事は、内臓系のどこかが負傷しているという事だ。
(闇人になっても、基本的な体の作りは人間だった頃と変わらないわね)
深緑髪の長い髪を揺らしながら、キベリアは片手で口元の血を拭う。魔力が尽きた事により、キベリアの変身も解けていた。赤髪の貧相な体つきの女性ではなく、深緑髪のグラマラスな体型の女性へとその姿を変えていた。
(さて、どうしましょうか・・・・・・さっさとこの場から離れないとまた光導姫や守護者が来るだろうし、動かないと・・・・・)
キベリアは闇人。レイゼロールによってその力を封印されなければ、世界に存在するだけで常にその気配をソレイユに察知されてしまう。ゆえに、キベリアは体を動かしてこの場を離れようした。もしこの場に再び光導姫や守護者などが現れば、さすがのキベリアもこの身を浄化されるだろう。そして、闇人にとって浄化とは死を意味する。
「ッ・・・・・!」
だが、キベリアの体はあまりの激痛と疲労により、もう動かす事が出来なかった。
「ははっ・・・・・・・・私も、ここまで、かしら・・・・・・」
箒を握り締めながら、キベリアは弱音を口にした。色々と過去のことを思い出し、覚悟を固めていたキベリアの耳にある音が聞こえてきた。
コツコツ、と誰かの足音が聞こえてきたのだ。
(思っていた以上に早かったわね・・・・・・)
恐らく光導姫がやって来たのだろう。思えば随分と生きてきた。実はまだまだ魔道を極めたかったが仕方ない。
自分は今日負けたのだ。そして敗者の末路は古代から決まっている。
足音がより近づいてきた。首も動かせず、意識も薄弱としてきた為その姿は確認できない。
そしてその足音を響かせた人物は、キベリアの前でその歩みを止めた。
(さあ、浄化ならやって)
顔を上げずにそう念じたキベリア。だが、降ってきた声は予想外で、キベリアの知っている声だった。
「――あら? こんな所で何やってるの、キベリア?」
「・・・・・・・・・・え?」
その声に反射的に首を動かす事に成功したキベリアは、その人物の姿を目で捉えた。
そこにいたのは、キベリアもよく知っている豪奢なゴシック服を着た少女の姿をした怪物。『十闇』第4の闇『真祖』のシェルディアだった。




