第178話 悪意再臨(2)
「なら教えてみなさいッ! 0のリセット!」
その言葉で、動きを止めていた炎の騎士や水の騎士などは虚空へと溶けるように消えていった。むろん滞空していた鋼のナイフもだ。それどころか、キベリアの横に控えていた雷の騎士も姿を消した。
キベリアの魔道その0は力の回収だ。キベリアの力――魔法は「魔力」なる力を使う。要は魔法を使うためのエネルギーのようなものだ。そして、当然エネルギーである以上限りがあるので、力の分配には気をつけねばならない。
分散した魔力のリセット。魔道0はそのための力だ。
「6の鋼、9の闇、合一し絶望に堕ちし正義と化す」
キベリアの言葉により、キベリアの前に闇色の甲冑を纏った騎士が出現した。両手には剣を二振り持ったその騎士は、いつぞやのレイゼロールと同じく闇色のオーラを纏っていた。
「――この子は私の中でも最強格の持ち駒よ。あなたにこの子が倒せるかしら?」
挑戦的な目つきでキベリアはスプリガンへと宣言した。この複合型の持ち駒、魔女的に言うならば使い魔とでもいうべきこの騎士は、魔力を大きく喰う代わりに絶大な戦闘力を誇る。
「へえ、いっちょ前に身体強化の力まで持ってやがるのか。ちょろっとは面白そうだな。くくっ、ところでよ、お前の闇の性質は何なんだ? いや、あんまあんた自身に興味はないんだが、闇の解釈だけは聞いておきたくてよ。俺がパクるために、な?」
だが当のスプリガンは少し興味を示しただけで、全くもって緊張感のない声でキベリアにそう聞いてきた。その表情は嘲りを隠そうともしていなかった。
「あなたには教えて上げないわ。それはそうと、あなた不快でしかないわ。心の底から私のことをバカにしてるのが丸わかりなのよ・・・・・・・・!」
「おっと、こりゃ失敬。なにぶん普段の俺には表情なんてものはねえから、ついつい本心が出ちまったらしい。ま、別にてめえ程度に隠す必要もねえけどな」
「っ・・・・・・・・行きなさい!」
怒りに震えたような声音でキベリアは召喚した騎士に攻撃を命じた。闇に蝕まれた鋼の騎士は凄まじいスピードでスプリガンへと肉薄した。
「さてと、やるか。せいぜい俺を――んあ? 左腕が動かねえ。ああ、そういや所々ダメージ負ってたな」
すぐそこに二振りの剣が迫っているというのに、スプリガンの体を乗っ取った悪意は、意識を影人の肉体へと向けた。とりあえず闇の力を回復の力へと変えて、この肉体の全てのダメージを回復させる。だがその時、騎士の2つの剣がスプリガンの体に触れた。
「はっ、間抜けめ・・・・・・!」
あまりの呆気なさに思わず笑みがこぼれるキベリア。今度はもう停止の力を使ったとしても間に合わない。
次の瞬間、騎士の剣がスプリガンの体を切り裂いた――かに思えたが、
「ああ、無駄だ。効かねえよ」
ガキィィン! とまるでとても硬いものを斬ったかのような派手な音が、存在しないはずの空間に響く。そして騎士の2つの剣はスプリガンの肩口で止まり、その体を切り裂けないでいた。
「っ!? 肉体の硬質化!?」
「ご名答。レイゼロールもフェリートもやってたんだ。なら俺にも出来るわな」
驚くキベリアにスプリガンはそう言葉を返すと、おもむろに右手を上げ、その右手を騎士の兜へと持っていき、兜を掴んだ。
「あんたの力の性質がまだ何なのか分からんが、属性への変換ってことは理解できた。属性っていう解釈は面白かったぜ。そこは褒めてやる。で、実際やるとしたら――こんなもんか?」
スプリガンが疑問形でそう言うと、その右手から闇色の炎が噴き出した。
そしてその炎は騎士の兜を燃え上がらせ、やがては騎士の甲冑にも広がっていった。