第166話 魔女と少年たちの葛藤(2)
「ふふっ、お久しぶりですね。レイゼロール様。ご機嫌麗しゅうございます」
「・・・・・・・・・久しぶりだな、キベリア。それと要らぬ世辞はいい。不愉快だ」
レイゼロールにお辞儀をした深緑色の髪の女性は妖艶に微笑み、「あら、それは失礼しました」と全く悪びれていないようにそう言った。
トンガリ帽子に黒いドレスを纏ったキベリアの姿は童話などに出てくる魔女のようだ。ただ童話の魔女が年老いた老婆が多いことに対し、キベリアは若く美しい。あくまで表面上はだが。
「・・・・・・・しかし意外だな。『十闇』の中でもシェルディアの次に気まぐれなお前が、1番乗りとは」
「レイゼロール様が我らに召集をかけるなど稀でしょう? そこが興味深かったので、早めに来ちゃいました。で、いったいどのような用件で召集を?」
レイゼロールはゼノとシェルディア、フェリート以外の十闇に自分と闇人との経路を使って召集をかけたが、その理由を述べてはいなかった。それは単に話せば少し長くなってしまうからだ。
「いいだろう、貴様に召集の理由を話す」
そう前置きして、レイゼロールはその理由を話した。スプリガンなる怪人が現れたこと、目障りな光導姫がいてまだ殺せていないなど、とにかく全てをだ。
「――なるほど。それは興味深いですね」
レイゼロールの話を聞き終えたキベリアが豊満な胸部を乗せるように腕組みをした。そしてその目には好奇の色が覗いていた。
「・・・・・・シェルディアは我慢が出来なくなってな。今は日本の東京にいるようだ」
「シェルディア様らしいですね。うん、なら私も東京で色々ちょっかいをかけてみましょうか」
「・・・・・それは構わん。お前を呼んだのはスプリガンに対する戦力としての面が大きいからな。だが、その前に一応聞いておく。場所はわかったか?」
レイゼロールが何かを期待したような口調で、キベリアにそう質問した。主語が抜けているが、キベリアにはその意味が分かっていた。
「残念ながら私には見つけられませんでしたわ。いくつか怪しそうな場所は見つけましたが、おそらく空振りだと思います。申し訳ありません」
初めてキベリアが本当に申し訳なそうな顔で、レイゼロールに謝罪した。十闇が普段世界に散らばっているのは、レイゼロールのある探し物を見つけるためだ。まあ、中にはまともに探さずに呆けている闇人もいるが。
(まあ、私もサボってる時はサボってるけどね)
内心、舌を出しつつもそれは表情には出さない。確かにキベリアはサボる時は自分の趣味にことかけているが、それ以外は一応まじめに探し物をしている。レイゼロールに申し訳ないという気持ちも本当だ。ただ、キベリアは要領がいいというだけの話だ。
「・・・・そうか、まだ見つからないか。ちっ、奴らめいったいどこに隠したか・・・・・」
レイゼロールは遥か昔からソレを探している。この世界に散らばったソレは複数個存在する。だが、一向にソレは見つからない。ゆえにレイゼロールの口から出たその言葉は怨嗟の感情が含まれていた。
重複している
「・・・・・・・・まあいい。目下の問題はスプリガン、奴だ。あの2人の光導姫も早めに消したいが、現在の優先順位は前者である」
レイゼロールは口調を厳かなものにすると、石の玉座から立ち上がり、キベリアを見つめた。
「十闇が第8の闇『魔女』のキベリアよ、我の前にスプリガンの首を差し出せ。そして安心しろ。もし貴様が敗れたとしても我は貴様を咎めん。我もフェリートすら退けた奴は間違いなく強敵。その上で命を下す」
「御意」
深緑色の髪の魔女は優雅に笑みを浮かべ、ただ一言そう返した。




