第148話 死闘、再び(4)
(っ・・・・・・! 本当によくも今の私の攻撃を捌き続ける! これでも私の最強の形態の1つなんですがね・・・・・!)
ただの光導姫ならば、ただの守護者ならば、3秒で殺せる。上位の光導姫と守護者でも五重奏状態のフェリートなら、10秒もあれば殺せるだろう。
だが、スプリガンは驚異的な身体能力と、動体視力、それに冷静に過ぎる判断でフェリートの予想を超え続けた。
(しかも幻影で私の本体をズラしているのに、最初の攻撃でそれを理解し、対応するなんて化け物ですか)
フェリートは執事の技能、幻影を自らに纏うことによって自分の位置情報をズラしていた。最初の攻撃こそスプリガンの頬に掠りはしたが、攻撃が当たったのはそれだけだ。
壊撃によってスプリガンの頬にはヒビが広がっているが、ヒビによってスプリガンが死ぬのはまだまだ先だ。そしてそんな時間までフェリートはスプリガンを生かそうとは考えていなかった。
(ですが、残りの剣は1本。追い詰めましたよ!)
フェリートの壊撃を付与した攻撃に寄って、スプリガンの剣は残り1本となった。勝利はすぐそこだ。
(レイゼロール様。この勝利とスプリガンの首をあなたに捧げます・・・・・・!)
フェリートの全身全霊の両手の手刀がスプリガンに迫った。
(さあ、いくぜ・・・・・・・・!)
フェリートが両手で手刀を放ってきた。おそらくこの攻撃は、影人の剣を壊すための攻撃だろう。今、フェリートは油断はしていないだろうが、ほんの少し気は緩んでいるはずだ。チャンスはここしかない。
「貫けぇッ!!」
闇による一撃の強化。脳内でイメージを描き、それを実現するための最小限の言葉を叫ぶように口に出す。脳内でイメージしたのはありったけの力。それを次の一撃に託す。
「!?」
まさかここで影人が仕掛けてくるとは思っていなかったのか、フェリートは攻撃の最中だというのに驚いた表情を浮かべている。いや驚いているのは、初めて自分が叫んだことへの驚きか。
影人は最後の剣を両手で持つと、思いきりそれをフェリートめがけて突きを放つ。その際、フェリートの手刀が影人の両肩を切り裂いたが、心配は後だ。
傷口からは即座にヒビが広がっていくが、その甲斐あってか影人の必死の一撃は通るかに思えた。
(ッ! おそらくこれを受ければまずい! 頑強と強化で肉体を強化していても前回と同じ二の舞になりかねない!)
スプリガンに前回、腹部に穴を開けられたことを思い出す。フェリートは加速の速度を以て、スプリガンの両肩を切り裂いた両手を即座に戻した。そしてその両手で、なんとかスプリガンの剣を掴むことに成功する。
「残念でしたねスプリガン・・・・・・・・! これで私の勝ちは確定した!」
フェリートの両手に掴まれた最後の剣は、ヒビが入り崩壊していく。完全に勝ちの目を潰されたスプリガンに、フェリートは高らかな勝利宣言を行った。
「――ああ、そうだな。お前なら受け止めると思ったよ。だから、俺の勝ちだ」
だがスプリガンは、影人は笑っていた。
「!? 何を言って――」
訳が分からなかった。もうスプリガンに剣はない。いかんせん、言葉を紡ぐ暇などはフェリートは与えない。事実の再確認をしたフェリートはスプリガンのその言葉をハッタリだと受け取った。
そして次の瞬間、フェリートの肉体の中心から少しズレた場所をスプリガンの右の貫手が貫いた。
「な・・・・・・・・・・」
自分の体を完全に貫通した右手を見て、フェリートは何が起こったのか分からないという表情をスプリガンに向けた。
「誰が剣で攻撃するなんて言った?」
満身創痍の黒衣の怪人は冷たい笑みを浮かべていた。




