第146話 死闘、再び(2)
「執事の技能、刃物の雨」
フェリートが鋭い目つきで聞き覚えのない言葉を唱えると、フェリートの周囲の空間からフェリートの持っているものと同じ、闇色のナイフが数百ほども出現した。そしてそれらのナイフの向いている先は、当然ながら影人だ。
「趣味の悪い・・・・・・・!」
「ありがとうございます」
パチン、とフェリートが右手を鳴らす。それを合図に数百のナイフが影人へと襲いかかった。
「ちっ! 闇の壁よ、そそり立て!」
影人の目の前に闇色の壁が出現する。前方から飛んできたナイフは全て、その壁に刺さるか、弾き飛ばされた。
「――壊撃」
「っ・・・・・・・・・!」
突如として闇色の壁は砕け散った。そしてその向こうから、両手にナイフを持ったフェリートが強襲をかけてきた。
(くそっ! あの崩壊させる闇の力・・・・・・・武器にその力を付与できるのか!)
フェリートが破壊の力を宿した2つのナイフを神速といえる速度で振ってくる。おそらく少しでも掠れば、かなり危ない。
前進してナイフを振るってくるフェリートの攻撃を、影人は金の瞳の動体視力とスプリガンの身体能力をフルに使ってバックステップで避けていく。
しかし、どうしても避けられない一撃があったので、影人はその一撃を右の拳銃で受け止めた。
そしてフェリートのナイフを受け止めた銃は、ヒビが広がっていき、やがては完全に砕け散った。
(やっぱりこうなるか・・・・・・・!)
予想していたことなので、驚きはあまりない。影人はナイフを避けながら言葉を紡ぐ。
「闇よ、我が手に集い弾けろッ!」
刹那の隙を突いて、右手をフェリートの胸へと伸ばす。影人の右手とフェリートの胸部の間に闇が渦巻く。
「っ! 頑強!」
振るっていた右のナイフは、スプリガンの左の拳銃に受け止められていた。スプリガンの拳銃は先ほどと同じように砕け散ったが、フェリートは冷や汗を流した。
なんとか闇による肉体の強度の強化が終わると同時に、フェリートの胸部に凄まじい衝撃が襲う。
「ぐっ・・・・・・・!」
それでも完全にダメージを相殺できず、フェリートは衝撃によって後方へと弾き飛ばされた。
「ちっ・・・・・・・・」
むろん、影人も近くにいた事に変わりは無いので、後方へと飛ばされた。だが、右手を伸ばした後、素早く両手を胸の前で交差させてたのでダメージはほとんどない。
必然、両者は再び距離を取る形となった。
「危ない、危ない。あやうくモロに喰らうところでしたよ」
「・・・・・・・・・・・」
相変わらずの完璧な笑みを浮かべるフェリートに、影人は内心あの破壊の力をどうするべきか思考を練っていた。
(フェリートの手か、ナイフに触れれば物質は崩壊する。それは俺の闇で創造した物も例外じゃない。だが、今の俺にあの破壊の力を受け止められる事が出来る物質は作れない・・・・・・)
おそらく1度だけ耐えられる物質は作れる。いや、作れるというより、闇による強化で物質を強化すれば1度は耐えられるのではないか、というのが影人の仮説だ。フェリートのあの破壊の力が自分と同じく闇の力である以上、それは闇の力で対抗出来なければ道理に合わない。
しかし、今の影人に出来る闇による強化は常態的なものではなく、一時的なもの。フェリートのように常態的なものではない。よって、受け止められたとしても1度だけだろう。まあ、この考え方も影人の仮説が正しいものとした場合だが。
(・・・・・・・なら、数で行くしかねえか)
得策とは言えない策ではあるが、それは仕方がないだろう。影人は脳内で数十の剣をイメージした。




