第14話 守護者の実力(2)
光司が守護者とわかった翌日。影人はいつも通り学校へ通った。ただ、心は少し重い。もし光司が敵に回ったらと思うと面倒に過ぎる。
(一匹狼はつらいぜ・・・・)
クールな心持ちで影人はそう思っているが、本心は「やべぇ、俺もしかしたら香乃宮の剣で斬られるかも」と内心ガクガクの見た目陰キャであった。
そんなことを考えていると、もう昼休みが訪れた。昨日はおかずがないという理由で弁当はなかったが、今日は米がないという理由で弁当はなかった。自分の母親はお茶目というかバカかもしれない。
そんなわけで今日も学食フロアに訪れたのだが、今日は購買を利用するのではなく、学食を利用しようと影人は考えていた。
「ふむ・・・・今日はササミチーズカツ定食に、豚バラ生姜焼き、それに焼き魚定食か」
学食のメニューを見ながら影人は頭を悩ませた。男子高校生的には、豚バラ生姜焼きに目を奪われるが、ササミチーズカツもヘルシーな上にうまいと捨てがたい。いや、やはり日本人的には焼き魚も――
うーんうーんと悩んでいると、後ろから影人に向かって声がかけられた。
「やあ、帰城くん。メニューでお悩みかい?」
「げっ・・・・・香乃宮」
自分に声を掛けてくる奇特な奴は誰だと後ろを振り返ってみると、そこにいたのは香乃宮光司だった。今日も変わらずイケメンフェイスに爽やかな笑顔を浮かべていやがる。
「・・・・何の用だ。見ての通り、俺はメニューを決めるのに忙しい。向こうへ行け」
「ごめんよ、僕もまだメニューを見ていないんだよ。だから失礼」
そう言うと、光司は影人の横に移動して影人と同じようにメニューを見つめた。
「帰城くんはもう決めたのかい?」
「俺はまだだ。正直どれも捨てがたい・・・・」
「そうか、確かにどれもおいしそうだからね。――よし、じゃあ僕は焼き魚定食にしようかな」
光司はそう決めると早速、焼き魚定食の食券を購入した。それを見た影人は少しというかけっこう驚いた。
「・・・・意外だな。御曹司さまが焼き魚定食なんて」
香乃宮光司はいわゆる御曹司だ。それはつまり金持ちということである。実際、昨日は学食で一番高いステーキを食べていた。
「ははっ、そうかい? 確かに僕の親は客観的に見て裕福だけど、だからといって高い食べ物だけがおいしい、なんていう教育は受けてこなかったからね」
光司は嫌み一つない顔でそのまま定食を受け取りに向かった。
後に残された影人は、悩んだ末にササミチーズカツ定食の食券を購入した。そして水を汲んで空いている席を見つけると、影人は腰を下ろした。
いざ実食、という心持ちで割り箸を割ると、前の席にある人物が焼き魚定食を持って腰を下ろした。
「いいかな?」
「・・・・もう座ってんじゃねえか。好きにしろ」
ニコニコ顔の光司に影人は呆れた顔で言葉を放った。一体こいつはなぜ自分に構うのだろうか。
「ありがとう。さてと、ではいただきます」
光司は手を合わせると、焼き魚に箸を入れ綺麗に骨を抜いていく。そこには彼の育ちの良さが窺えた。
「・・・・まず一つ、昨日は悪かった。突然腹が痛くなってな。次に二つ目、お前なんで俺に構う」
ササミチーズカツ定食を食べながら、影人はぶっきらぼうに光司に質問した。正直、光司が守護者とわかってから影人はできるだけ光司を避けようと思っていた。
まあ、その理由は絶対に言いたくはないのだが。
「そうだったのか、てっきりまた振られたのかと思ったよ。――僕が君に構う理由は簡単だよ。君と友達になりたいからさ」
「・・・・・よくもそんなセリフを素面で言えるもんだ」
聞いていてこっちが恥ずかしくなるとはこのことだ。だが、そんなことを真っ直ぐ言うのがこの男なのだろう。
はっきり言って、こいつは本当に良い奴だ。人間として何も面白くもない自分と、おそらく本心から友達になりたいと言っている。きっとこいつとはいい友人になれただろう。
「――そいつは光栄だ。だが、答えはNOだ」
「え?」
影人は付け合わせの味噌汁を飲み干すと、おぼんをもって席を立った。その言葉を聞いた光司は呆けたような顔をした。
「はっきり言って迷惑だ。もう二度と俺に関わるな」
とどめの言葉を放ち、影人はそのまま光司のいる席を後にした。その途中、光司を見つけた陽華と明夜とすれ違う。
「あ! 香乃宮くんも学食? 私達もなんだけど一緒に――あれ、どうしたの香乃宮くん?」
「あれ? 今の人・・・・」
明夜と陽華は学食で光司の姿を見かけたので、一緒にご飯でもと思って声を掛けたのだが、明夜は光司が何かに驚いたような顔をしているのが気になった。
一方、陽華は今すれ違った男子学生がこの前ぶつかった少年と同じ人物だということに気がついた。だが、少年はもう学食フロアから出て行くところだった。
「ッ! ああ、月下さんに朝宮さん。いや、別に何も。そうだ、一緒にどうだい?」
光司は少しぎこちない笑顔で陽華と明夜を食事に誘った。




