第1314話 幽霊との問答(3)
「な、何・・・・・・? 俺、そんなにおかしい事言ったかな・・・・・・?」
「おかしいさ! おかしいが、まあ理解はあるよ。君はまだ吾を普通の人間と思っているようだからね。だが、しかし・・・・・・くくっ、人が吾と友にか」
女は尚も笑いながらそう言った。普通、人間などという女からしてみれば下等な存在が、女と友達になりたいなどと申し出る。それ自体が、とんでもない不敬だ。もし女が不機嫌であったのならば、自身の重圧を再び解放して影人に罰を与えていたかもしれない。
だが、今の女にとって影人の申し出は愉快な思いの方が強かった。ゆえに、女は影人に罰を与える事はしなかった。
そして、あまつさえ、
「いいだろう! 少年、特別に吾はお前と友になろう! 吾に真っ直ぐに、純粋にそう言える精神が気に入った。光栄に思え。吾と友になった人間など、唯一無二の例外。全ての世界が開闢して以来の一大事だ!」
女は影人の提案に頷いた。
「え、いいの・・・・・・? 正直、今の感じだと俺断られると思ってたけど・・・・・・」
頷いた女に、影人は意外そうな顔になる。そんな影人に女は再び頷く。
「普通なら、間違いなく断ってるぜ。だが、何だかな。少年、君は面白い。吾を見れる事もそうだが、吾に先ほどまで恐怖を覚えていたのに、今は吾と友達にならないかという。しかも、それは恐怖からの提案ではなく、少しの哀れみと善意からの提案だ。吾にそんな思いを抱ける。そこが気に入った」
「そうなんだ・・・・・・じゃあ、これからよろしくね、お姉さん。友達なんだから、俺の事は影人って呼んで」
改めて、影人はそう言って女に再び右手を差し出す。笑みを浮かべながら。
「ああ、分かったよ。よろしく頼むぜ、影人」
女は笑みを浮かべ影人の名前を呼ぶと、左手で影人の右手に触れようとした。友人となる握手が交わされる。そして――
女の左手がスッと影人の右手を通過した。
「え・・・・・・?」
その現象に、影人は素っ頓狂な声を漏らす。何かの間違いだろうと思い、影人は自分から女の手を握ろうとした。だが、起きる現象は先ほどと同じだ。影人は女の手に触れる事は出来ない。まるで、ホログラムに触れようとするかのように。霧に触れようとするかのように。幽霊にでも触れようとするかのように。
「え、あ・・・・・・お、お姉さん。これって・・・・・・」
影人が訳が分からないといった顔を浮かべながら、女の顔を見つめる。女は影人の戸惑いに変わらずに笑みを浮かべ続けると、こう言った。
「今起きた現象が全てだよ。影人、吾はお前に触れられないし、お前は吾に触れられない。吾には肉体がないからな。今の吾はただの精神体。つまるところ、この世界で言う――」
女が言葉を紡ごうとしている時だった。突然、静かな神社内にこんな声が響いた。
「おーい影人! いるかー?」
「ッ、父さん・・・・・・?」
影人が聞き覚えのある声に、その声のする方、鳥居の方に振り返る。すると、そこには影人の父親である影仁の姿があった。影仁はすぐに大きな石の近くにいた影人を見つけると、安堵の表情を浮かべた。




