第1305話 昔日の帰城家(2)
「で、結局行き先はどこにしようって考えてるんだよ父さん。行くか行かないかはまだ決めないけど、取り敢えず教えてくれ」
豆腐とお揚げの味噌汁を啜り、影人は影仁にそう質問した。ちなみに、今日の帰城家の夕ご飯は、白ごはんに、豆腐とお揚げの味噌汁、そして豚の生姜焼きというメニューだった。作ったのは影仁だ。帰城家の食事当番は、日奈美と影仁の交代制なのだ。
「えー、お前さっき俺に冷たかったじゃん。普通に教えたくないんだけど」
「何で拗ねてるんだよ・・・・・・はー、本当ガキみてえ・・・・・・分かったよ、さっきはごめん。だから、教えてくれよ」
唇を尖らせた影仁に、影人は仕方なくそう言った。全く、これではどちらが子供か分かったものではない。
「ふっ、いいぜ。俺は大人だから許してやる。よーし、影人に穂乃影。聞いて驚け、俺が旅行の行き先に計画してる所は・・・・・・」
影仁は一瞬気持ち悪い笑みを浮かべると、言葉をため、その場所の名前を告げた。
「なんと、京都だ! 夏の古都! 美しい街並みに神社仏閣! 観光する場所は盛り沢山! 定番ではあるが、言い換えれば旅行先の王道! 家族で一夏の思い出いっぱい作っちゃおうぜ!」
急にハイテンションになった影仁に、影人は若干引いたような顔を浮かべた。本当にこの人は大人で自分の父親なのか。情緒はいったいどうなっているのだろうか。
「京都か・・・・・・取り敢えず、母さんと穂乃影はどう思ってる? 賛成か反対か」
「私はまあ賛成ね。京都って何だかんだ高校の修学旅行以来行ってないし。あの時はただ友達とはしゃいでただけだけど、今行くと違った見方も出来るでしょうしね」
「私は正直どこでもいい。旅行自体が楽しみだから」
影人の質問に、日奈美と穂乃影はそう答えた。なるほど。つまり、2人とも賛成というわけか。
「母さんと穂乃影が賛成なら、俺も反対はしないけど・・・・・・でも父さん、旅行の代金はどうするつもりなんだよ。正直、父さんの稼ぎで旅行に行けるとは思えないんだけど」
影人は疑うような目を影仁に向けた。影仁の仕事は、いわゆる都市伝説や不思議系を扱う雑誌のライターで、稼ぎは正直少ない。そのため、帰城家の家計の殆どは、大手モデル雑誌などの編集者である日奈美の稼ぎで賄われている。いま影人たちが住んでいるこの2階建ての一軒家の家賃も、日奈美が全て払っている形だ。そのため、影仁にはいわゆる甲斐性はない。その事を知っていた影人は、疑問を抱きそう聞いたのだった。
「うぐっ・・・・・・いやまあ、父さんだって貯蓄してるお金は多少あるからさ。だから、それ使って・・・・」
「心配しなくても大丈夫よ影人。旅行代金は、私の夏のボーナス使うから。そもそも、影仁には金銭面の事は期待してないし。だから、お土産とかだけ買ってもらいなさい。穂乃影もね」
どこか引き攣ったような顔で答えを返そうとする影仁だったが、日奈美がばっさりと横からそう言った。




