第129話 提督襲来(2)
「――!」
「くそッ! 闇奴如きがッ!」
「下がれディレーヴァ! 死にたいのか!?」
北方の地ロシア。その首都であるモスクワで光導姫と守護者が闇奴と戦っていた。
そしてその状況はというと、光導姫・守護者サイドの方が劣勢であった。
最初は2人が優勢であった。基本的に光導姫と守護者は、その実力に見合った相手と戦う。そのためのランキング制度であるし、ソレイユも光導姫と守護者を死なせたくはないからだ。例外があるとすれば、光導十姫くらいだろうか。
だから2人は問題なく勝てると思っていた。それは決して自惚れではないし、また手を抜いたり油断もしてもいなかった。
光導姫の名はディレーヴァ。守護者の名はべーリー。どちらもこの世界に身を置き始めて、2年少しのベテランだ。ランキング外ではあるが、2人とも実力はあるほうだ。
今回2人は市街地に出現した闇奴の対応を各神から受けた。といっても、言葉ではなく知らせの合図だ。
現地に急行した2人の目の前に現れたのは、熊のような姿の闇奴であった。協力して浄化するまであと少しといったところで、闇奴は段階進化してしまった。それから2人は劣勢に追い込まれたのだ。
「――! ――!」
非常に不愉快な声を上げながら、イカやタコのような触手を無数に伸ばす闇奴。元の熊のような姿を残しつつも、体から新たに触手の生えた姿は生理的な嫌悪を抱くのには充分な姿であった。
「ッ!? 木々よ!」
ディレーヴァは小剣と一体型になっている杖を振るった。すると、アスファルトを突き破り地面から太いと形容できる枝が無数に伸びて、2人を狙う触手に絡みついた。
「べーリー! 今だッ!」
「スパシーバ! ディレーヴァ!」
ディレーヴァに感謝の言葉を述べ、べーリーは真っ白な斧を持ち闇奴に距離を詰めていく。守護者に闇奴を浄化することは出来ないが、ダメージを与えて弱体化させることは出来る。
「――!」
闇奴がべーリーに意識を向けるが、闇奴はその場から動けないでいた。ディレーヴァが闇奴の体から生えた触手を枝で拘束しているからだ。
「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
触手以外の中遠距離の攻撃手段を持たない闇奴は、べーリーの接近を許してしまう。べーリーは至近距離から、その真白な斧を振りかぶった。
闇奴は両腕を交差させてその攻撃を受け止めようとするが、それは意味を為さなかった。べーリーの剛斧がその両腕を切断したからだ。
「――――!」
(いけるッ!)
両腕を切断され身もだえする闇奴を見て、べーリーが勝機を見いだす。べーリーの大上段の一撃がそのまま闇奴の頭をかち割るかに思えたその時、闇奴が大きく口を開いた。
そしてその口の中から5本の触手が出現し、べーリーの肉体を打ちつけた。
「がはっ・・・・・・・・・・!」
「べーリー!?」
残念ながらべーリーの斧が闇奴の頭を割ることはなかった。べーリーは触手の強打を受けて後ろへと吹き飛ばされた。
「ちっ! まだ生えてくるのか!」
アスファルトに転がったべーリーを心配しつつも、ディレーヴァは闇奴に意識を傾けた。元々の熊のような姿に触手が生えただけでも気色の悪いというのに、口からも触手の生えたその姿は、まさに化け物と形容するのにふさわしいものだった。




