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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
12/1999

第12話 守護者(3)

「さて・・・・・・」

 ソレイユのテレポーテーションによって瞬間移動した影人は、とある広場に出た。どうやらこの付近に闇奴が出現したようだ。

『影人、あそこです』

 ソレイユの声に導かれるまま顔を向けると、15メートルほど離れたところに()()はいた。

 一言でいうならそれは巨大な蛇であった。だがその蛇はとぐろを巻きながらも、見上げるほど巨大な姿だった。全長はおそらく10メートルほどになるだろう。

 毒々しいその鱗の色は紫で、爬虫類独特の細い瞳の色は奇しくも、スプリガン時の影人と同じ金。チロチロと覗く舌はまるで獲物を探しているようだ。

 影人はすぐさま広場の茂みの中に隠れると、その中から蛇の様子を窺った。

「あれが今回の闇奴か。でかいな」

『ええ、ですがあの闇奴は知性がありません。ただ獣に身をやつしただけです。なので一言で言うとでかいだけ、危険度としては最低クラスになります』

「・・・・・だが、あいつらは前回その最低クラスのやつに殺されかけたぞ」

『あれはレイゼロールが細工をしていたからですよ。ですが、わかっています。なのであなたという保証以外にもさらなる保証はしてあります』

「俺以外の保証・・・・?」

 一体それが何なのかは分からないが、闇奴のうなり声が聞こえたので影人はそちらの方を見た。

 すると陽華と明夜が闇奴の前に現れ、ブレスレットを使って変身した。いつもの口上を述べた二人はそのまま闇奴との戦闘に入った。どうやら今回はレイゼロールはいないようだ。

「よし・・・・・これで結界は展開されたな」

 レイゼロールがいないことに安堵の気持ちを抱いた影人は、ホッと息を吐く。正直、レイゼロールは今の陽華と明夜が相手をしていい人物ではなく、要するにラスボス的な存在なのだ。

『今回も死者はいないようです。結界が展開されたことで、ひとまず安心といったところでしょう』

 影人の言葉にソレイユがそう返してくる。ちなみに結界というのは、光導姫が変身するのと同時に発動する辺り一帯を包む不可視のドームのようなものだ。

 結界が展開されている間、普通の人はその場所を無意識的に忌避する。なので結界が展開されている間は、一般人が光導姫と闇奴の戦いに巻き込まれるということはない。

 だがこの結界にも例外があり、光導姫と守護者はこの結界が展開されていても、結界の効果を受けることはない。なぜなら、光導姫と守護者は神の合図により闇奴の場所を本能的に知っているからだ。

 もちろん結界が張られる前に闇奴が一般人と遭遇することもある。そう言った場合には政府が動くらしい。らしいというのは影人自身、ソレイユから詳細なことは聞いていないからだ。しかし、影人が学生以外にこの仕事を始めて以来、人が死んだとは聞いていない。

「この感じだと、今回は俺が出て行かなくてもよさそうだな・・・・・」

 ちょうど大蛇の頭に陽華が強烈な踵落としを叩き込んだところだ。大蛇はキシャーと声を上げ地面にその頭を落とした。すかさず明夜が魔法を発動し、蛇の頭を地面に縫い付け拘束する。

「・・・・6限には戻れそうだな」

 影人もただの高校生。しかも今回は無断で5限を欠席している状態だ。ちょっとというかかなり気にしている影人は、だいぶと小心者である。

『全く、私の切り札の一つというべき者がなんと小さい。嘆かわしいですね』

「・・・・・おいてめぇ、殺すぞ」

 ソレイユの声を聞いた影人は殺意のこもった声で言葉を放った。

 別に影人だって好きでこんなことをしている訳ではない。一体どこの誰が、こんなに面倒くさくてもしかすると命の危険があるかもしれないことをするだろうか。だが、影人はその面倒で危険な役割を行っている。自ら光導姫になることを決意した陽華と明夜とは違う。影人はほとんど強制的にスプリガンになったのだ。

『・・・・・ふふっ、すみません。嘘ですよ、私はあなたに感謝の気持ちこそあれ、そんな気持ちは抱いたことはありません。いつも本当にありがとうございます影人』

 しかしソレイユはそんな人間の殺意など、素知らぬ感じで言葉を返してきた。そして不意打ちのように影人に感謝の言葉を述べてくる。

「なっ!? ばか、いきなりなんだ!?」

 その言葉に先ほどとは打って変わって影人は明らかに狼狽した。その様はまるで年相応の少年のようだ。

『あら、可愛いところもあるんですね。正直、とんでもなく無愛想なクソガキだと思ってましたけど』

「余計なお世話だ年増。・・・・・・というか切り札ってなんだよ?」

『誰が年増ですか! 別に深い意味はありませんよ、それよりもそろそろみたいですよ』

 ソレイユに言われて意識を二人に向け直すと、二人が浄化の詠唱を始めたところだった。だが、前回はここでピンチに陥った。二人もそのことがわかっているとは思うが、影人はいつでも飛び出せるように様子を見守る。

「逆巻く炎を光に変えて――」

「神秘の水を光に変えて――」

 二人がそれぞれの手を闇奴に向かって伸ばされ、その手が重なる。

「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 闇奴に向かって光の奔流ほんりゅうが放たれる。身動きの取れない蛇の闇奴はその奔流に飲み込まれた。

「キシャャャャャャャャャャャャャャャャャャャャャ!?」

 断末魔の悲鳴を上げながら、闇奴が浄化されてゆく。もう何も起こることはないだろうと、影人が警戒を解いた時、二人に危険が訪れた。

 よほど心の闇が強かったのか、大蛇の闇奴は浄化されるまで少し時間がかかり、その間に闇奴は最後の抵抗を行った。

「シャッ!」

 大蛇はその体を鞭のようにしならせ、その尻尾を陽華と明夜にぶつけようとした。その先端の速度は空気の音が鳴っていることから、音速だろうと予測できる。

「しまった!」

 今から飛び出しても間に合わない。スプリガンに変身するならなおのことだ。

 二人もその攻撃は流石に反応できなかったらしく、今にもその尻尾に当たりそうだ。そして当たれば大ダメージは必死だろう。

「くそッ!」

 これは自分のミスだ。この前ソレイユに陽華と明夜に油断するなと伝えた自分が、一瞬でも警戒を解いてしまった。そのせいで二人は――!

 影人が衝動から飛びだそうとしたとき、ソレイユの声が響いた。

『言ったはずですよ影人。あなた以外にも保証はしてあると、――どうやら間に合ったようですね』

 ソレイユの言葉が影人の中に響いた瞬間、どこからか突如、剣が飛翔した。

 そしてその剣は音速の速さで蛇の尻尾に突き刺さった。そのあまりの速さで生じた衝撃に、剣が突き刺さった蛇の体は後方に移動した。

「・・・・・・は?」

 闇奴はそのまま浄化されていき、後に残ったのはその剣と闇奴化していた人間だけだ。

 影人と、陽華に明夜がただただ呆けていると、どこからか足音が響いてきた。

「――よかった、間に合ったみたいだね」

 コツコツと気持ちのいい音を立てながら、その少年は現れた。

 白を基調としたどこかの王子然とした服に、非常に整った顔立ち。ピンチに駆けつけるその姿は、どこかスプリガンに変身した自分を思い出させた。

「あいつは――!」

 茂みに隠れ直した影人は思わず目を見開いた。なぜならそいつは――

 残された剣を左腰の鞘に直した謎の少年は陽華と明夜に対して、爽やかな笑みを浮かべながらこう言った。

「初めまして、新人の光導姫のお二人。僕は守護者――あなた方の騎士ナイトです」

 先ほどまで自分と話していた少年、香乃宮光司だったからだ。

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