第118話 闘いとサプライズ?(1)
「あの、闘うってどういうことですか?」
「よく分からないんですけど・・・・・・」
――私と闘ってもらいます。風音が今発したその言葉の意味を、陽華と明夜は理解出来なかった。いや、言葉のままならば意味は分かる。だが、その言葉の意味を理解できない、といった方が正しいかもしれない。
「言葉の通りです。私はまだあなたたちの実力を知らない。実力を知らなければ、それに見合ったアドバイスは出来ない。だから、あなたたち2人と私が闘う。そういう意味」
「待ってくれ連華寺さん! 2人の初めての模擬戦の相手が君というのは、少々酷すぎやしないか!?」
風音の言葉に光司が食ってかかった。光司には風音が何をしようとしているか、分かっていた。
「それは分かってるわ光司くん。でも、これは私なりの2人に対する気持ち」
風音は取り乱す光司を見ながら、言葉を続けた。
「2人の気持ちは本気だと私は感じた。なら、本気には本気で返さないとそれは失礼に当たるわ。彼女たちは新人の光導姫だから、本格的な研修を受けるのは夏だろうけど、いま私が出来ること、教えられることはするつもり」
「っ・・・・・・・・だが!」
光司がなおも食い下がろうとするが、そこで陽華が意を決したように風音に話しかけた。
「・・・・・・・・それは強くなるのに必要なこと何ですか?」
「朝宮さん!?」
思ってもいなかった陽華の発言に、光司が驚いたように顔を向けた。陽華の顔は戸惑いの表情も多分に含んでいたが、どこか決意の色も存在していた。
「それが強くなるのに必要なことなら、私たちは何でもします」
そしてそれは明夜も同じだった。未だに事情を完全には飲み込めていないが、風音と闘うことが必要ならば、自分には、いや自分と陽華には何だってする覚悟はある。
「月下さん!? 君まで何を・・・・・・・!?」
「まあまあ、香乃宮さま。ここは1つ、見守りましょうです」
感情的な光司を新品が宥めるような口調で諫める。現代日本において新品は光司より立場が下ということは決してないが、この場合は諫めたというのが最も適切な表現であった。
「だが・・・・・・・・!」
「香乃宮さまの気持ちもよくわかるでありますが、これはお2人の問題。朝宮殿と月下殿がそう決めたのであれば、見守るのが友というやつでありますよ」
「っ・・・・・・・・!」
新品の言葉が光司の胸に突き刺さる。友云々かんぬんはともかくとして、新品の言葉は正鵠を射ていた。そう、これは陽華と明夜が決めることであり、光司が口出しする案件ではない。
(でも、彼女たちはまだ新人の光導姫なんだぞ!?)
だが、光司の胸中では未だに納得は出来なかった。本来ならば、他の光導姫との『模擬戦』は夏の研修に行うものだ。
模擬戦は光導姫ならば、光導姫と光導姫が闘い、守護者ならば守護者どうしが闘うといったものだ。お互いが力を振り絞り、全力で闘う。
そして、当然そこには危険もつきまとう。
模擬戦を経験している光司はそのことがよく分かっていた。
光司が未だに迷い悩む中、陽華と明夜ははっきりとした答えを風音に返した。
「「私たちはあなたと闘います!」」
(っ・・・・・・・・・本気なのか)
決意を讃えた目でそう宣言した2人に光司は内心そう思うだけで、もう何も言えなかった。
「――その勇気にまずは賞賛を。では、場所を移動しましょう。芝居、度々ごめんなさい。先生がたに第3体育館の使用の許可を頂いてきてくれる? 治療役は私がいるから大丈夫だと伝えて」
「頼まれたであります。では、失礼して」
風音の頼みに新品はそう答え、生徒会室を後にした。
それから少し話をして、風音は凜とした表情で立ち上がった。
「では、私達も移動しましょう」




