第102話 逃走とダミー(3)
「で、影人。結局あの子とはどういう関係なのさ?」
「どうって言われてもな・・・・・・・顔見知り?」
「ただの顔見知りは学校までお弁当届けに来ないと思うけど? 影人、なんか誤魔化してない?」
「別に隠してねえよ。ただ何て言ったらいいかわからんだけだ」
風洛高校からの帰り道、影人はなぜか尋問気味の質問を友人から投げかけられていた。先ほど、なぜかコンビニで揚げ物をおごらされたのもそうだが、暁理が不機嫌なのは全く以てよく分からない。
なお、影人はお金を持っていなかったので、暁理が「信じられない! これ貸しだから! 絶対返してよ!」と言って暁理から金を借りたという形になった。そのため、暁理は自分の金で揚げ物を買ったのだが、なぜか影人が金を返さなければいけないというややこしい事態になった。
「ふーん・・・・・・・影人がそう言うなら、影人のお母さんに話を聞こうかな。お弁当もってたって事は、あの子影人のお母さんと知り合いだろうし」
「・・・・・・・・やめてくれ面倒くさい。別にお前には何の関係もないだろ」
影人の家にシェルディアがいるのを暁理が知れば、絶対に面倒なことになる。一応、つき合いの長い友である影人にはそのことがわかった。
それにもし暁理がつい口を滑らせて、自分の家にシェルディアがいたということを誰かに話してしまえば、それもまた面倒なことになる予感しかしない。
ゆえに少し突き放すように影人はそう言った。
「確かにそうだけどさ・・・・・・・」
友人の拒絶の言葉に、暁理は口をとがらせた。そこまで嫌と言われれば、もう探りはしないが、納得はできないといった感じだ。
「そう言うこった。じゃあな、暁理」
「む・・・・・・・はぁ~、仕方ないか。バイバイ、影人。また明日」
お互いの自宅への岐路で、そう言い合うと2人は別れた。
「ったく、帰ったら母さんに文句の1つでも言ってやる」
あの母親のことだ。どうせシェルディアに悪いと思いつつノリノリで行かせたことだろう。影人の母親は尊敬出来る所も多分にあるが、ノリというかそこら辺が自分とはあまり合わないのが玉に瑕だ。
(ウチの母親に巻き込まれただけの嬢ちゃんにも、何か感謝のプレゼントでもしてやらなきゃな・・・・・・・・)
今回の件で完全に被害者なのはシェルディアだ。確かに寝床やその他を彼女には提供しているが、それとこれとは別である。
しかし、あの年頃の海外の少女がいったい何を欲しがるのか、影人には全く分からない。
その事で頭を悩ませていると、何日ぶりかのその声が脳内に響いた。
『影人』
「・・・・・・・・・仕事の時間か」
脳内に響くソレイユの声に、影人は少し面倒くさそうにそう呟いた。
『ええ、それはそうなんですが今日は少し毛色が違います』
「・・・・・・・・・どういうことだ?」
その言葉に影人は疑問の声を返した。
『あなたにいつもお願いしているのは、陽華と明夜を見守ることです。しかし、今回あなたにお願いしたいのは、別の光導姫を見守ることです。そして、スプリガンとしてのあなたの姿を光導姫に確認させること。この2つです』
「・・・・・・・・・・」
ソレイユの『お願い』を聞いた影人は、なぜそんなことをしなければならないのか考えた。そもそも自分の仕事は、ソレイユも言った通り陽華と明夜の2人を見守ること。そして必要があるならば2人を助けることだ。
しかし、今ソレイユが言ったことはそれとは別。確かに毛色の違う話だ。
では、その理由は。
数瞬の間、思考を巡らせた影人は1つ可能性のある答えに辿り着いた。
「・・・・・・・・・ダミーか?」
『よく・・・・・・わかりましたね』
ソレイユは影人がその理由を察したことについて驚いているようだった。
『その答えに辿り着いたあなたならもう分かっているとは思いますが、なぜあなたにそのような事をしてもらうかの理由を話しましょう』
ソレイユはその理由を話し始めた。
『まず当たり前ではありますが、あなたは陽華と明夜の2人を専属に見守り助けてきました。あなたは何度もあの2人を正体を知られることなく助けてくれた。しかし、それゆえに完全な偏りが生じました』
「・・・・・・スプリガンの目撃情報か」
『ええ。そもそもスプリガンを直接見た者は限られますが、このままのスタイルを通していけば、いずれ誰かが気づくでしょう。スプリガンは特定の光導姫との戦闘にしか現れないと』
そう。今までスプリガンは陽華と明夜が関わった戦闘にしか介入していない。この前のレイゼロールとの戦いでは2人以外の光導姫や守護者などもいたが、それはあの2人がいたから介入しただけだ。
『基本的に今の2人には守護者ランキング10位の彼がついていますから、あなたが助けに入ることは稀です。最上位の闇人やレイゼロールといった例外中の例外でなければ彼だけで事足りるでしょう。しかしそれでも偏りは発生しています』
「そのための、か・・・・・・」
全てがわかっているような口調で影人はそう言葉を返した。
『はい。そこであなたの目撃情報をばらけさせます。あなたの存在自体はもう日本の光導姫や守護者には知られていますから、気にしなくても大丈夫です。こういった面ではラルバに感謝しなければなりませんね。具体的には、2人以外の光導姫や守護者にあなたの姿をわざと見させる。そのことによって、あなたは光導姫や守護者、闇奴、闇人の前にその姿を現す謎の人物という今のイメージを貫けるはずです。一言で現すなら、あなたの言った通りダミーという言葉が1番ですね』
少し長めの言葉が影人の脳内に響いた。ソレイユが前置きしたように、そのような事は影人にも分かっていた。
「・・・・・・・・了解だ、としか俺には言えないからな。・・・・・・・・わかった。で、俺はどこに行けばいい? それともお前が転移させてくれるのか?」
『私が転移させます。安心してください、場所は東京です。まずはこの日本で最も強く、影響力のある光導姫――ランキング4位『巫女』と闇奴との戦闘に姿を現してください』
「はっ、了解だ」
影人はそう言うと、人目の少ない細かな路地に入った。すると、影人の体を光が包んでいき、やがて影人の姿は完全にその場から消えた。




