第1012話 カケラ争奪戦 イタリア6(5)
「っ、これは本当にマズイね・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
ファレルナとゼノも予想外の出来事に、力の放出を止めた。ファレルナは翼を必死に羽ばたかせ引力に抗い、ゼノも必死に地面を踏ん張った。当然、影人やレイゼロール、エリアや壮司も必死に踏ん張り、黒い歪みに吸い込まれないように努めた。
『何とか耐えてください影人! 歪みはもう少しすれば収束するはずです!』
(分かった!)
ソレイユの必死な言葉を聞きながら、影人はただひたすらに耐える。力を使う暇もないほどの圧倒的な引力。今は誰も彼もがただ耐えるしかない。
幸い今のところ、影人を含め全員が何とか耐えている。あと少しすれば――
「きゃっ!」
「っ・・・・」
だが、今の攻防で力を大いに消費したためか、ファレルナとゼノは引力に耐えきれずに、吸い込まれようとしていた。ファレルナは上空から歪みに吸い込まれ、ゼノは地上から浮き上がり歪みへと吸い込まれる。
「ゼノ!?」
「『聖女』!?」
レイゼロールとエリアがそう叫んだ。しかし、いま2人に助ける術はない。ファレルナとゼノはこのまま黒い歪みに――
「っ・・・・! ちきしょうがッ!」
しかし、それをどうにかしようとする者がいた。影人はそう叫ぶと、踏ん張るのを止め、自身も敢えて歪みの方へと吸い込まれていった。
『影人!?』
『おいバカ何やってんだ!?』
ソレイユとイヴがそんな声を上げたが構うものではない。影人は自分よりも先に吸い込まれるであろう2人よりも速く歪みに到達するために、『加速』して歪みへと向かった。
(チャンスは1度きり。タイミングはクソシビア! だがやるしかねえ!)
同時に眼を強化した影人。ファレルナの光がないので世界はいつものようにスローモーションに映る。影人は自分の歪みに向かう到達タイミングと、ファレルナとゼノが歪みに向かうタイミングをどうにか合わせようとした。
「スプリガンさん!?」
「何やってんだ君は・・・・!?」
ファレルナとゼノが影人に気づきそんな反応を示す。だが、そんな反応などはどうでもいい。
「うるせえよ! こいつは、やらなきゃならない事なんだよ!」
影人はやけくそ気味に叫ぶ。そうこれはやらなければならない事なのだ。ソレイユは先ほどファレルナを助けてほしいと言った。ならば、影人はその願いを実行するだけだ。それがスプリガンとしての影人の仕事だ。
そして影人がタイミングを調整した甲斐もあり、歪みの前に丁度、影人、ファレルナ、ゼノの3人が揃った。第1関門はクリアだ。
(やってやる、やってやるぜ!)
スローモーションに映る世界の中、影人は右手でファレルナの左腕を、左手でゼノの右腕を掴んだ。
「はっ、さっき治しといてよかったな・・・・!」
影人は自然とそんな言葉を吐き出した。正直、ゼノを助ける意味はない。なんなら助けない方がいい。しかし、ファレルナのついでだ。助けてやろうと影人は思った。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 飛びやがれッ!」
影人は両腕に渾身の力を込めた。振り絞った。そして思い切りファレルナとゼノの腕を掴んでいた両腕を振るった。肩が脱臼するほどの力で振り飛ばされた2人は、引力を振り切り真っ直ぐに地上へと向かっていく。
「ぐっ!?」
「あっ!?」
飛ばされたゼノとファレルナは脱臼の痛みに顔を歪めつつも、何とか受け身は取れたようだった。
「はっ、さすが俺だぜ・・・・・・・・」
やり切ったような顔で最後にそう呟いた影人は、既に歪みへと吸い込まれていた。
『影人! ダメです、ダメです! 戻って来てください! 私はまだあなたに何も――!』
『ちきしょうこんな最後かよ! てめえと心中なんざ――!』
「ははっ、悪い・・・・・」
歪みの中からついさっきまで自分がいた世界が見える。これが最後の光景か。そんな事を思いながら、影人は2人に謝罪の言葉を述べた。
そして歪みは徐々に閉じていき、やがて完全に影人は元いた世界から切り離された。
――この日、この瞬間、帰城影人はこの世界から完全に姿を消し、消えた。




