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第四話:とある少年はもがく。「才能ないけどこの自己満足を誰かに伝えたい気がする」


5月17日(日) 雨



 我が輩はクマである。名前はまだない。そろそろ自分でつけようかとすら考え始めた。


 今日は日曜日、休日である。一般的な学生の例に漏れず我が輩は11時までタップリと睡眠を取った。


 特にすべきこともないため朝食を取ると真昼殿の日課を引き継ぎ本屋を冷やかしに向かうことにした。


 休日であるから真昼殿の家から少し遠い大きな本屋に行く。


 どうやらそういう1人が真昼殿は好きらしい。付き合ってくれる彼女がいないから、とかそんな理由では断じてなく。


 というか強がりでなく本当に過去に付き合いのあった女性が付いてきたとき真昼殿の記憶では真底それを快く思っていなかったようだ。男女の付き合いとは不思議な物である。


 しばらくは小説のコーナーをさまよい東野 圭吾なる作家の物を手に取りパラパラと捲る。あまり好感の持てそうな物はなかった。こればかりはそのときの気分であるからしてやむを得ないだろう。


 次にライトノベルなるコーナーに向かったがこちらもあまり興味を牽かれなかった。真昼殿が好きなライトノベルのタイトルで現在発行されているものは既に全て集め終えているらしい。たしか“文学少女”と“嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん”と言っただろうか。


 結局真昼殿の趣向に従い“相棒”なる書籍の“すぴんおふ”版の第二巻を一冊レジに通し我が輩は本屋を出た。作者名にハセベバクシンオーとあり奇妙な名の人間もいるものだと感心した。


 途中“こんびにえんすすとあ”に寄った。真昼殿の携帯で『こんびにえんすすとあ』なる意味を調べると『便利な店』となったが価格が高くあまり便利だとは感じなかった。


 帰宅した我が輩は真昼殿に習いジーンズとジャケットを乱暴に脱ぎ捨てる。こんなことばかりしているから真昼殿の部屋は散らかっている。


 少し遅いが“こんびにえんすすとあ”で購入した昼飯を摂取し真昼殿の好物である苺牛乳を啜りながら我が輩は風呂を沸かす。休みの日は長風呂し小説を読むのが真昼殿の日課なのだ。片付けも日課にすればいいのに、と少し苦笑した。


 ぬるめに設定した湯につかり我が輩は先程購入した相棒なる書籍を読み始める。


 ふむ、やはりプロの仕事はアマチュアである真昼殿の物とは比べ物にならない出来である。


 何が違うのだろうか?


 語彙力? 表現力? 経験? 読み手としての視点? おそらくどれも足りないだろう。しかし結局のところ『才能』なのだろうと思った。


 真昼殿は小説家になりたいと少しばかり考えているようだ。しかしなれないと感じている。自分の書くものは面白くないと知っている。


 ならばなぜ書くのか…… 真昼殿が書きたいからに他ならない。


 自己完結の自己満足を、誰かに言ってどうなる物でもないと理解していても、真昼殿は伝えたいと願っている。


 嬌声であり悲鳴でもある奇妙な願いだ。



 誰かに届けばいいと我が輩は両手を合わせ、祈った。





 ◇今日の真昼殿◇


 夕方に降った雨の湿気で真昼殿は不機嫌であった。


 夕食を終えた我が輩が部屋に戻るとテレビジョンの中の天気予報士に八つ当たりをしていた。


 ぬいぐるみを辞める気はそろそろ出てきただろうか?




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