出さない手紙
あの頃わたしはなにもしらない子どもで、あなたがとても大人にみえました。
そして素敵な方なんです。
お元気だって風のうわさで聞いています。
少しだけ後ろ髪引かれるような、そんな苦みが思い出です。
今のわたしがあるのはあなたのおかげ。
わたししかしらないわたしの中のあなた。
いただいたものが多すぎて、返せるあてがありません。
あなたはとても冷たくて、とてもやさしい人でした。
わたしはそれに傷ついて、そしてときには慰められて。
ひとりで起つと決めたのは、あなたの手本があったから。
でも本当は寂しがりやだって知ってます。
今でも時々チェックしてしまいます。
あなたの住んでる横浜のお天気。
どうか風邪には気をつけて、健やかにお過ごしくださいますように。
ささやかな幸せに喜びがあり、眠りが甘いものでありますように。
いくらかはわたしも大人になりました。
背伸びをせずにあなたを想えるくらい。
いただいたアドレスは消えてしまいました。
あなたの思いやりのよすがでしたのに。
少しは泣きましたが、これで良かったのだと思います。
あれから十年も経ちました。
きっとあなたは今でも少し冷たくて、とてもやさしい人なんでしょうね。
わたしは相変わらず行ったり来たりの毎日です。
少しは進歩したつもりですけれど。
きっと、ご存じだと思うけれど、ずっと伝えたかったことがあるんです。
ふと懐かしくなって、こうして筆をとりました。
これすらも、書いたきり、出さない手紙だけれども。
わたしを形作った方。
あの頃、あなたがすきでした。