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四話・忘却


(うぅ……痛い…。)


ゆっくりと目を開けると、僕は寝ていたようだ。

体には包帯が巻き付けてあり、所々痛む箇所がある。


恐らく、病室のようだけど病院ではない。どこかの屋敷なのか、周りの装飾が煌びやかで綺麗だ。

そして壁には沢山の絵が飾られていて、肖像画のようだ。

歴史は詳しくないから全く分からないけど、柔らかな表情をしている。誰なんだろう。


「おう、青年。起きたか。調子はどうだ?」


右隣を向くと坊主頭の厳つい男が、木製の丸椅子に座っていた。


(あれ……?この人って……。)


僕が倒れているところに来た『マインドウォーカー』

……だったけ。そんな人だったような気がする。


「そんな困り顔するなよぉ!忘れちまったか?」

「あ、あぁ、やっぱりあの時の……」

「おう、俺様はマインドウォーカー『戦闘局戦闘課』の『加賀 英五郎(かが えいごろう)』ってんだ!よろしくな!」


加賀は握手をする手振りをし、にこやかに笑う。


「あ……はい、よろしくお願いします」


僕は差し出された手を渋々握る。


────するとその時、白い光に飲み込まれるような感覚がした。

◇◆◇


『パ……パ…私…死んじゃう…の?』

小さな女の子が涙を流していた。頬が黒く光り、肌色を徐々に黒に染まっていく少女。

手が、足が、身体中が闇に包まれるようにゆっくりと消えていく。


『………』

ある男が何か言って少女の手を握る。


少女は

『ありがとう。』

と笑って消えていった。


◇◆◇


…何故か、悲しい情景が目に浮かんだ。

僕は目を疑った。

何故なら、僕の記憶でもなんでもないのだ。


「どうした?」


心配した加賀が影山の顔を伺う。

どうやら僕はよほど困った顔をしていたらしい。


「レイノルズ博士から言われたんだが、お前ら二人をここで少しの間居てもらうことにした。博士は色々聞きたいらしいから一階会議室にいくといい。」


加賀は下の方向に指を指し示し、そう言う。

そして思い出すように、特徴である大きな声でまた声を出した。


「あ!言い忘れてたぜ、ここは『マインドウォーカーT市支部』の二階の医療室だ。この屋敷は随分広いから気をつけろよ。まぁ、何か困ったら俺に聞いてくれ。」


「二人…?」

「あのアフロ頭だ。さっきまで起きてたんだが今はぐっすりだな。」

「真嶋先輩は大丈夫なんですか?」

「ロストをみて気絶しちまってただけだ、大丈夫だ!」


親指を上に立て、「グッチョブ」と加賀は言った。

本人を前にして言うのは気が引けるので言えないけど、声デカいな…この人…。


「博士は此処の家の主でもあるし、俺の上司でもあるからな。気を引き締めてけよ!青年!」

「は、はい…失礼しました…。」

「あ…あと一つ!」

「…は、はいッ」


加賀はこちらを見て、崩れそうな表情を隠すようにまた口を開いた。


「いや…なんでもねぇ!行ってこい!」


僕は急かされるように木製のドアを開け、部屋を出た。


──────


開けた先は、『ザ・洋館』という感じでシャンデリアや石でできた像がおいてあり、綺麗と言わざる負えない光景だった。壁はレンガで出来ていてお洒落な雰囲気を醸し出している。

だがこの景色、どこかで見覚えがあった。覚えてはいないけど、僕の感覚がそう言っているような気がした。


ドアを出て、すぐで立ち止まっていた僕の左から数人の足音がすると突然声を掛けられる。


「影山様。博士がお呼びです。」


呼び止めた方向を向くと、そこにポニーテールの黒いスーツを着た、僕と同じくらいの年の女の人がいた。

表情は硬く、端正な顔立ちをしている。この人とは会ったことは無いはずなのに、どことなく懐かしい。

一人は金髪のスーツを着崩した男、もう一人は気の弱そうな僕よりも年下のスーツの長髪の女が後ろについていた。


「あ、はい。あなたは…?」

「…それはお答え出来かねます。任務とは関係ないものなので。」


(……え?)


彼女は目を伏せ、僕の方を見ることもしない。

()()あるのだろうが僕には全く分からなかった。


「ハイハイ!姉御は下がって下がってぇ!」


後ろに立っていた金髪のスーツを着崩した男が前に割り込み、僕の目の前に現れた。

姉御…と言っていたから多分年下なのかもしれない。


「影山さんッマインドウォーカー支部にようこそって事なんでッ博士のところ向かいましょー」

その若者は手招きするそぶりを見せる。どうやら案内してくれるらしい。


────────────────────


少し進み、階段を降りる時に金髪の男は口を開く。

「あ、名前言ってなかったすね。俺は『戦闘局サポート課』『金崎 雅斗(きんざき まさと)』っていいますんでよろしくですッッ!あ、マサって呼んで下さいね、秒で飛んでくるんでッ。」


「あ、はい…。」

「なんで敬語なんすかぁ?タメでいいっすよ。」

「…分かった。そうするよ。」

「姉御ッ、ほら挨拶しよーぜ?」


ポニーテルの女はすたすたと階段を降りて先に行ってしまう。


「…やっぱダメかぁ…」

金崎は頭を抱えて項垂れる(うなだれる)


「な、なぁ…僕もしかして嫌われてるのか?」

「あ…いやそういうわけじゃないんすけど…ちょっと…ね。」


金崎は苦笑いをして誤魔化した。

そこにもう一人の気の弱そうな女が小さな声で


「……か、彼女は貴方に罪悪感を持ってるのよ…」

「え…?」

「シノン!?お前ダメだって、言うのは…!姉御に…何度も言われただろ?」

「マサ、これは彼女だけの問題じゃないのよ…私たち『マインドウォーカー』に関わる事なの…。」

「………。」


金崎は黙り、シノンと呼ばれた女はこっちに振り向く。


「ご、ごめんなさい…。私は『戦闘局サポート課』の柴野 霊歌(しの れいか)。いきなりで悪いんだけどちょっと話があって…。」


柴野は一息入れて、口を開く。


「影山さん、如月 真唯(きさらぎ まい)って人覚えてる…?」


如月…真唯…?


『奏くん!おいでよ!』


笑顔の女の子があの公園で言ったのを思い出した。

あれ…あの子の名前…なんだっけ。


「まあ、わかんないのも仕方ないよね…。」

「しゃーないっすね、十年も前の話だし。」

「…行きましょ、博士が待ってるから」


こうして僕は、会議室にいる『博士』と呼ばれる男に会いに行くことになった。


◆◇◆

【会議室】


会議室には既に五人いた。

長机の中心に一人、その両脇に二人ずつ座る形で──。


「あ、あの、話って…?」

「よく来てくれた…影山クン。」


中心に座る哀愁漂う眼鏡を掛けた紳士がそう答えると、

その両脇の四人が突然僕の方を向き口々に吐き出す。


「博士、この影山という男、本当に活躍できるのでしょうか。」

「新しい仲間ッ!?まじぃ!?」

「どーせ訓練についていけないだろぉ、この子。」

「まぁまぁ、みんな博士の話を聞こうぜ?」


「私は『レイノルズ』。マインドウォーカー司令部局長だ。」


彼がそういうと皆は口を慎み、静かに話しを聞き始める。


「さ、自己紹介をしてくれ、まずは一番若い『九鬼 光之助(くき こうのすけ)』クン。」


九鬼と呼ばれる虹色の派手なフードを被った男は手を空高く上げ、


「はいはいッ!!18歳の戦闘員ッ!加賀さんにお世話になってますッ!あの俺皆に…」

「博士ェ…こいつの声あのバカ坊主みたいに頭キンキン鳴るんで私行っていいですかぁ?」


彼の口を手で押さえつけ、口の悪い髪が赤みがかった女性がそう言った。


「あぁ、『犬山 穂香(いぬやま ほのか)』クン、あまり過激なことは言わないように…」

「分かってます…あ、影山って言うんだっけ、私は犬山。犬山って名前で開発局の局長してる。若いのにこんなことに巻き込まれるなんて災難だね。」


犬山と呼ばれた女性は獲物を目でとらえた狼のような目つきでこちらを見てそう言った。


「おっほん…あんまり睨まないように…犬山クン。」

「すみませんねー、博士。つい癖で。」

「ん…次は『戦闘局戦闘隊長』、『城戸 志連(きど しれん)』クン。頼む。」


城戸と呼ばれた目が細めのニコニコしている男が席から立ち上がる。


「俺は『戦闘隊長』をやってる『城戸 志連』だ。呼び方はなんでもいいぞ?試練を乗り越えた志連…グフッ!!」


「……。」


「…博士、次に行きましょう。」

「竜崎ッ!!まだ俺の演説が始まったばっかりでしょーが!!」

「あ、あぁ、竜崎クンの言う通りだな、頼む。」


竜崎と呼ばれる男が席を立ち、口を開く。


「『戦闘局戦闘員』の『竜崎 令(りゅうざき れい)』だ。よろしく。」


手を差し伸べてそういわれたので、『よろしく』と慣れないように握り返す。


そしたらまた、白い光に包み込まれるような感覚に陥った───。


◆◇◆


…なんだこの風景、僕の知らない家…。

家が燃え始めている。


煙がたちこめ、轟々と音を立てて炎が巻き上がる。


そこに二人が対峙していた。


黒いフードを身を纏った赤眼の者。


涙を流し、それでも抵抗する心を持った者。


その二人は家の火災による粉塵で見えなくなっていった。


◆◇◆


…まただ、、。


影山は、また知らない記憶が目に浮かんできた。

これは夢なのか、はたまたそれ以外なのか。


「どうしたっすか?」

「あ、いや何でもない。」


隣にいた金崎がそう言うと僕は咄嗟に何もないと嘘を吐いた。


すると目の前にいる竜崎が前から決めていたような言葉を僕に投げかけてくる。


「俺らの役目は心影、いや【ロスト】を消すことだ。それだけは忘れるなよ、忘却者。」

「…忘却…者…?そもそも僕はここに入るみたいな話なんて…」

「…忘れてる、か。これも仕方ないか。」

「…え?」


─────


【同時刻 屋敷廊下】


(全部…私が…ッ!!)


黒いスーツを着たポニーテールの女が廊下を駆ける。

息を切らしなら、逃げるように。


(あの時の私が…ッ!)


「廊下は走るもんじゃねーよ如月、ゆっくり歩くもんだぁぜ。」

「…。」


如月真唯は足を止める。

目の前に坊主頭の加賀、無口の冷泉が立っていたからだった。


「なんか影山とあったのか?また()()()のことを…」

「…やめて…下さい…。あの件は私一人で解決しますので…。」


「お前…ホーライが現れたことは知ってっか?」

「ッ…!?」


その刹那、悪寒が襲い掛かった。

もう思い出したくもない男…ロストの名だった。


「ホーライは稀にみる知的ロストのうちの一人だ。そいつがあの青年を俺らに返して来たんだ、おかしな話だと思わないか?」

「…そのことも全部私が終わらせますから。」

「お、おいッ!!」


如月は走り始める。

加賀と冷泉を押しのけて。


「…あいつどうやって終わらせるんだよ…。」

「…。」

「あいつ確か無能力者じゃなかったか…?」

「………。」





────



ぜぇ…ぜぇ…。


(私のせいで全部崩れた…。)


(奏くんの記憶も過去も全部…。)


(私の能力なんていらない…こんな『時操・滅』なんて私には…)


(誰にも…頼っちゃいけない…)


(私一人で…。)








































































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