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三話・赤眼の男

黒霧の中、竜崎は悶え苦しんでいた。

呼吸器官が正常に働かずに五分以上経過している。その中で竜崎は思考を繰り返す。


(死ぬ…死ぬ…!)


胸を押さえ、肺を必要以上に動かさないように耐える。


「ハァ…ハァ…」

竜崎は倒れ、仰向けになる。


『“絶望”の果て、それは人のゆく先の果てでもある。

絶望を感じた時、それは人の終焉である』


レイノルズ博士が確かそんなことを言っていた。


(俺はこれまでに自分の手で成し遂げたことはあるだろうか)


自分の手を見る。

その手は砂や泥で黒く滲んでいた。

空を見る。

黒霧によって薄汚れ、汚い空だ。


(無い)


(希望も夢も、奴らによって打ち砕かれた)


唇を噛みしめ、痛みに耐える。


(立て…立つんだ俺……)


体は起き上がらない。

まさかと思い、足や手を動かそうと躍起になる。

だが、動かない。


(折れちまってる…のか?)

竜崎という男の四肢の筋肉はロストとの闘いで完全に疲労してうごかなくなっていた。


ロストへの復讐心が募るものの体は動かず、自身の体力も黒霧に奪われ最悪の状況。

誰も助けには来ない。本当なら自分自身が助けるべき立場なのだ。

でも自分の身は自分で守らなければ誰も守れない。そんなことは俺もわかってる。

弟を守れなかったのも、自分の命が惜しかったからだ…。もしあの日、動けていれば…。


三年前のあの日はとても恐ろしかった…。

今日のように黒い霧に覆われていて、雨も降っていた。

赤眼の男が目の前で家族を…。


◇◆◇

───『三年前』O市 竜崎家───


ある日突然我が家に午前一時ごろインターホンが鳴った。

当時17歳だった俺は少し遅い反抗期で自分の部屋に籠って、夢だったミュージシャンになる為に必死に自分なりに勉強していた。


「はーい、どなたでしょうか?」

夜遅くに帰ってきた父親が来客に対して玄関を開け、対応する声が聞こえる。

もちろん、深夜なのもあって母親と弟は自分の部屋で寝ていた。


俺はこんな夜中にどんな来客が来ているのか気になってドアを少し開け、玄関の様子を見る。

人数は三人で黒いフードをかぶっており、顔が分からない。


「人は…なぜ生きるのでしょうか……」

「はい…?」


三人のうちの真ん中の男がそういうと、父は意味がわからないという感じで返す。

今思えばもうこのうちに追い出すべきだった。だが過去は変わらない。


「“教会”へ入会しませんか?そこでは人間のあるべき姿を……教えてくれます」

「勧誘かなんかか?うちはそういうような事には興味がないんだ。帰ってくれ」


間髪入れずに父は拒むと、そいつが腕をまくり、腕を見せてくる。

腕は真っ黒で鳥のような紋章が赤で刻まれていた。


「では、あなた方四人で人間のあるべき姿を体現化させてあげましょう」


淡々と、一切の感情が含まれていない口調でそう言った。

この時には気付かなかったが、相手にはこちらが四人いるということは知らないはずのに、なぜ知っていたんだろうと今では疑問に思う。


「あんた何言って……」

「……【炎斬(えんざん)・暴】……」


真ん中の奴がそう言うと、黒かったはずのそいつの腕が赤く燃え始める。

赤で刻まれた鳥の刻印は更に燃え盛る。


瞬きをしないうちに、溶岩のように燃え盛る腕が父の体を貫いていた。一瞬のうちに肉が焼け、骨が溶ける。穴が開いたその体は解け落ちるように爛れ、最後には崩れ落ちる。俺はその音と情景が鼓膜と肉眼に張り付き、恐怖により体が動かない。

それどころか体中が痙攣したかのように震えが止まらなくなり汗が信じられないほど出てくる。

自分を大切にしてくれた父が『人だったもの』になってしまっている、その事実に思わず声を漏らしてしまう。


「父…さ…ん…?」


俺の声に気付いたのかこっちを見て被っていたフードを下す。

顔はいたって人間のようで整った顔だったが、白目にあたる部分が黒く、黒目にあたる部分が赤い色をしており気味が悪い。


「やはり居ましたね“管理者”さん?」


子供に問いかけるようにそう言った。

語尾を上げただけで、声色は変わらずに、笑顔だが無感情といった感じで俺と目を合わせる。

というか、目をそらしても目を閉じても奴と目が合っているような感覚に陥り、恐怖心が更に俺の心を煽る。


「まだあなたは我々の素質がある」

「…はぁ!?お前─────」


俺がやっとまともに出そうとした言葉が出る間もなく、奴は隠していたハンドガンで母の寝室にめがけて撃ち、弾は木製のドアを突き抜け、壁に直撃する。


「……ッ!」


弾は母さんには当たってはいなかった。

今警察を呼んでこの場をどうにかしなければいけない、どうにかして説得させられればどうにかなるのかも、と考えていた矢先


「説得して助かるとでも思いましたか?残念ですねえ」


母の寝室から爆音が聞こえた。

それと同時にドアが吹き飛び、家にあった火災報知器が鳴り始める。

爆発のようなものから引火して火事になったのだ。



「安心してくださいね、あなたは意志があった。我々には必要ないと判断致しましたのでこちらで──」


─────()()致しますので。


奴は泣かせる暇も与えることなく、俺に言う。


「私は『ホーライ』。計画を実行するため、ここに来ました」

「……計画?」

「……まずあなたを…処分してからお話─────」


奴はハンドガンを俺に向ける。

殺すつもりだったに違いない、だが、弟の部屋から物音が聞こえ、俺の前に弟が立ちはだかる。


「あ、兄貴はなぁ!俺の……唯一の兄貴なんだよ…ッ!この家から出でけ!」

「一輝!?」


弟の一輝は野球の金属バットをもって俺の前に来ていた。

高校に入ったばかりの弟は野球がとても好きだったので野球部に入った。

もともと気弱な性格だった弟がこんな行動に出るなんて思いもよらなかったし、

相当勇気が要ることだと俺は思う。でも俺はこの時…何も出来なかった。


──昔からそうだ。事あるごとに逃げていた。そんな自分が大嫌いだった。


「戦う気が失せましたよ、同じ“管理者”として、情けないですね、弟に庇われるなんて」

「さっきから何なんだよ!管理者ってッ!兄貴には令って名前がッ」

「もういいですよ、殺すのは諦めます。仕方なくあなただけ残しますよ。その代わり、もっと絶望心を作っておいてくださいね?」


赤眼の男“ホーライ”は呆れたように一輝の頭を掴み、壁に叩きつける。


「一輝ッ!」

「安心してくださいね、数分で死にますから……ふふふ」


奴は笑顔で手を振り、黒い霧へ消えた。

一輝は「今までありがとう」と一言だけ言った。

その後に救急車を呼んだが、家族は戻ることは無く、心に残った感情は憎悪のみだった。


◇◆◇


そんな地獄みたいなあの日を忘れることはない。

『ホーライ』、お前をこの手で葬り去るまでは、俺は死ねない…。


───この手で、必ず。


その時、黒霧の中で何かが動いた。


意識が覚束なくなってくる。

死が近づいてくる。

人としての終焉が─────来るの、かも─────。


「諦めんのは早いんじゃないか?」

「……」


そこには仲間がいた。

諦める自分に手を差し伸べる仲間が。


「『絶望を感じた時が人としての終焉』じゃなかったのか、竜崎。」

「加賀…さん…冷泉さん…」

「……。」


冷泉は竜崎の手を握っていた。

冷たい手ではあるが、強く、堅い。


「さて、仕事だぁ!」

「……」


加賀がそういうと暗闇からあの“ロスト”が飛び出してくる。

やはりすごい勢いだ。どうやって処理するのだろうか……。


「危な…いッ!」


(必死に声をかけてもだめだ…やめようとしない…)


ロストは瞬間移動先を冷泉に決めたのか、冷泉の方向を見つめて瞬間的に消えてしまう。


「こいつに正攻法は効きやしねえよぉ、瞬間移動で逃げまくるからなぁ!」

「冷泉ッ!例のアレやってくれ!」


冷泉は頷くと両手を合わせ、目を閉じる。

手が青白く光り、その光が交差する。

まってましたと言わんばかりに目の前にロストが現れ、槍を振り上げ攻撃を開始しようとする。


しかし冷泉は気を取られることなく両方の掌を正面に突き出し、光の波を作り出してから前方へ押し流す。その光の波がロストに直撃しロストは電流が走ったかのように硬直し動こうにも動けなくなる。


「でたぜ、冷泉の派生能力(はせいのうりょく)“光束”だ。あのロストはもう一生動かねえ。」

「派生……能力……」

「そうだ!管理者が努力によって得られる能力(チカラ)の事だァ!……っておい、竜崎そんなことも知らなかったのか!?」

「ちがい……ますよ。ただ……の……確認の……」

「あぁ分かったから黙ってろ!傷口が広がっちまうから!!」


その直後、冷泉の体から全く同じ容姿の冷泉が分離し始め、合計三人になり、ロストを囲うように三角形になっていく。


「このロストの弱点はなぁ!瞬間移動の後に多少のクールダウンの時間があるんだよぉ!だからこうやって瞬間移動の隙をつくことができた。さすが俺様の作戦だぜ」

「…あれ…は……」

「あー、冷泉は“管理者”でよぉ、【虚影(きょえい)・解】が使えるんだよ。つええだろぉ?これがこいつの得意技だ。」


「虚影…って確か……」

「分身みたいなやつだ、平たく言うとな」


逃げ場所のないロストを三人の冷泉は『排除装置放出型』を構え、三人一斉に

青いエネルギー弾が銃口に溜まり始める。エネルギー弾が発射されると、一気にロストへ集束していく。


──そして中心核の部分を撃ち抜くと、闇が漏れて地面に倒れ、徐々に消えていく。


「よっし、余裕だったな!冷泉!」

「……」


(あんなに…強かったロストが…一瞬で………ん?)


突然、倒れたロストに鍵穴が現れる。

黒と紫で基調された不気味な鍵穴。

そこにはどんな記憶がしまってあるのだろうか、わからない。

飲み込まれそうなほど奥深く、見入ってしまうほど美しくも見える。


それをみて『人のあるべき姿』という言葉を思い出した。

人の汚さ、美しさを具現化したような、ロスト。

俺は考えてしまった。「人間の真の姿はロスト」なんじゃないかと。

まさか…あの言葉って……


──────『計画を実行するため』



「お前は今回は分が悪すぎたな!まあ焦ることはないさぁ!俺様ともっと頑張ろうぜ?」

「……まだあの頃よりは成長してるみたいですね…でもまだまだだ足りませんね絶望心が。」


そこに大きな足音を立て、ある男が歩いてくる。


「あぁそういえば…道端に落ちていましたよ…『マインドウォーカー』さん?」


その男は右手で軽々と影山を持ち、笑顔で佇んでいる。


「青年ッ!?お前ッ!」

「……!」

「ホー…ライ…ッ!?」


──────────赤眼の男『ホーライ』だった。




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