もしもし、あたしメリーさんなんだけど!
初投稿です。
それはちょっとした……いや嘘だ、かなり衝撃的な出来事だった。
具体的に言うと深夜二時にやってくる突然の腹痛と家が災害で断水してるからコンビニ駆け込まなくてはならない状況が重なる程度には衝撃的な出来事だった。
「もしもし、あたしメリーさん」
少女が引越しの際に捨てれらた人形が復讐を果たしに来るオカルト。
なんてことは無いあまりにも有名なウワサ話。
少し前に空前の大ヒットを果たし、トイレの花子さんや口裂け女に並び立つレジェンドオブレジェンド。
「自称メリーさんから電話が来てしまった……」
そう、あの捨てられた人形が復讐を果たしに来るというメリーさんから電話が来てしまったのだ。
人形なんて捨てた覚えはない、なんなら生まれて此方人形なんてものを買った覚えすらない。
というか私が持ってるのは小さい頃、友達に貰ったメカちゃん人形だけであるはずだ。
恐る恐る、私は電話を繋ぐ。
「しもしも……」
「もしもし、あたしメリー。今駅地下にいるの、深夜の駅地下もなかなか乙なものね」
電話が切れる。
すぐさま電話が。
「もしもし、あたしメリー。今駅地下のスバタにいるの、サイズが読めないわ。とーるってどのくらい大きいのかしら? とりあえずこれにしてみるわね」
電話が切れ、また電話が。
「もしもし、あたしメリー! とーる大きすぎないかしら!? あと容器に書かれた名前のスペルが間違っているのだけど!」
電話が切れ、また電話が。
「もしもし、あたしメリー。今アナタの自宅にいるわ。もぬけの殻なのだけど、今アナタどこにいるの? 深夜二時に女性一人で外出なんて危ないわ、今迎えに行くわね。ところで水道が止まってるわよ、断水ってやつね、飲料水代わりにスバタのコーヒー置いとくわ」
電話が切れる。
駅から私の家まで三十分はかかるはずなのに今の一瞬でスバタから家まで移動した……?
馬鹿な、速すぎる。
幽霊特有の瞬間移動ってやつだろうか……。
だが、惜しい。
私ってば今トイレだし。この前の水害のせいで今コンビニトイレでお花摘みだし。
さすがメリーさんでもコンビニのトイレとはわかるまい、いざ分かってもどこのコンビニか、なんてバレるわけがありませーん。
勝ったな。
そんなことを思いつつ大きなラフレシアを菊の花に添え、そろそろトイレを出ようかと、花摘みペーパーに手を向けた、その瞬間。
コンコン、と扉がノックされる。
『もしもし、もしもし』
「は、はい……?」
『まだかかりそうですか……?』
もしもしという言葉に身を震わせたが、どうやら他の客のようだ。
それもそうか、考えすぎたかな、あははは。
「いやぁ、すいません。マンションが断水しちゃってて……あはは……はっ、えっ、メカちゃん……? 消えた!」
扉を開けた途端、消えてしまう人陰。
一瞬見えたその姿は、碧眼金髪ブロンドにボンキュッボン、今は懐かしいタンスに仕舞われたメカちゃんを彷彿させた。
「どうも、あたしメリーさん今アナタの後ろにいるわ。この匂い……下痢ね臭いわ。例えるならそうね、まるでラフレシアのよう」
な、一瞬で背後に回っただと……?
メリーさんのオチはたしか、振り返ったらメリーさんに殺されるみたいなはず。
はっ、まさか私が振り返らない限り彼女は私を襲えない……?
振り返ったら最期、ならばその逆は……!
「閉まれェ、ドアアアアアアアアアアアアアアァアッ!!」
頭で理解するよりも先に、私の身体はその答えを得ていた。
勢いに任せて扉を閉めて奴と私の間に壁を作り出す。
「ちょ、まちなさいっ!」
扉をどんどんと叩くメリーさんを背後に確認しながら私はゆっくりと扉から身を離し、振り返る。
やはり、ドアなどを介せば振り返り判定はない!
ふふ、これは逆転サヨナラホームラン。
「あたしメリー、こんな屈辱初めて。あたしメリー、あまりあたしを舐めないで欲しいのだわ。あたしメリー、今、アナタの背後には何があるかわかって?」
あたしメリーまでが一人称なのかな……?
ん、私の背後?
背後なんて透明なガラス張りの自動ドアがあるくら……あ、今メリーさんが瞬間移動したらそこに移動するから……しまった!
私は気づいた瞬間、自動ドアへと全力で後退る。
「ふふふ、もう遅いわ。あたしメリーはアナタの背後に回って……アナタの肘鉄を食らうわ!?」
「あっ」
肘に触れる柔らかい肌を感じながら、背後で崩れ落ちる女の子を再びトイレに閉じ込めてやる。
現在の時刻は午前四時、外でゴミを纏めながらポカンと口を開ける店員に一礼し、私はコンビニを後にした。
後日、自宅に届いたお留守番電話には彼女の声がいくつか録音されていた。
あたしメリー、今トイレのドアに穴を開けたわ。
あたしメリー、今店長さんに叱られまくりなの。
あたしメリー、修繕代を稼ぐためにアルバイトを始めたわ。
あたしメリー、アナタも買い物に来なさいよね。
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