二重人格、隠されたフェイス
* * *
「やっぱり君は、私の期待していた通りの人だったよー」
偽物の自分を剥ぎ取った私は、彼-滝川ハルト‐の顔に愕然とした表情が浮かぶのを待つ。しかし、それはいつまで経っても現れなかった。
「あれ、驚かない? こっち側の私にモードチェンジしたのに。もし私が普通の子だったら、これ見たら悲鳴上げまくりだよ」
私はそう言って、眼の前に広がる『檻』を指し示した。そこには、数十人の人々が個室に分けられ管理されていた。しかし、その人々の表情は恐怖や悲しみを抱いているというよりは、むしろ幸せを感じているかのように見えた。
「僕をそこまで見縊らないでくれ。君が普通の人間と違うことは、店にいるときから薄々感じていた。でも、今の言葉で確信が持てたよ。君が僕と同じ世界の住人で、そこに興味を持って僕に会いに来たこともね」
「あはは、バレちゃったかー。まあ、いいけどね。君がどの程度の人間なのか、推し量っていただけだから。ところで本題だけど、君は具体的にここで何をしてるの?」
「普遍的な言葉で表現すると、自殺志願者の扶助かな。まあ、こんな安易な言葉で理解してもらいたくないけど、先ずは、イメージを持ってもらいたいからね。ちなみに、さっきの金塊はこの人たちの依頼金だよ」
なるほど、だからこんな僻地にあるのかと、私は理解する。
「っていうことは、これ全部『私死にたいでーす』って言っている人ってこと? ウワー、世間の人って、バカだね〜」
試しに滝川ハルトを挑発し、彼を探る。
「そこは、僕は同意できないな」
「え、どうして?」
かかった。
「さっき、僕は人々に孤独を与えていると言っただろう? 僕は、死を求める人は皆、孤独を求める故に結果として死地に向かうと思っている」
「んー、私の孤独についての考え方はちょっと違うかな。自分ではやりたいこといっぱいあるから死にたくないしねー。それに、そんな難しく考えたことないや」
私はアンビバレンスな感情のうち、偽物の側を生贄として、滝川ハルトに差し出す。これは、彼に真意を見透かされないための盾だ。
「まあ、完全同意は求めてないけどね。これは、僕の個人としての一意見だし」
「そうだねー。というか、さっきから気になってたんだけど、他の部員は? 確か登録上はあと五人ぐらいいたはずだよね」
話を逸らし、彼の警戒心を解こうとする。
「ああ、うちの部員は皆他人と関わることを良しとしない連中ばかりだからね。だから、一人一人、別の場所に部室があるんだ。それに、皆役割は違うから、部室を一緒にしてもあまり意味が無いんだ」
「役割って?」
「例えば、この場所はアイソレーションサークルの待機所になっているんだ。僕等に依頼をしてきた人達は、輸送係によって一旦、拘置所に運び込まれる。そして、期日が迫るとここに運びこまれるよ。それから、忌日が決まると、また別の運び屋によって依頼者が希望した死地へ運ばれて、死へ誘う専門家によって業務が行われるんだ」
「へー、上手く出来てるねー。あっ、もしかして最近この町で失踪者が増えてるのもそのせい?」
「ああ、そうだよ。説明は以上だけど、何か質問はある?」
私の感情が踵を返した。
墓穴を掘りまくった滝川ハルトは、どこまで愚かなのか、自らの矛盾の指摘を求めてくる。
これが、驕り高ぶっている人間か。私は失望して、彼の思想の分解に入った。
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