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アイソレーションサークル


 僕等がその場所に着いたとき、夕景の黄昏はもうどこか遠くへ行ってしまっていた。

 幸い満月だったので、月光によってまだ少し先を見通すことが出来る。


「どこまで行くつもリ? もう疲れたよー」


 彼女‐佐伯リリア‐が後ろから嘆く。それもそのはずだ。なんの装備もなく、険しい山登りをしたのだから。


「着いたよ」


 僕がやってきたのは、喫茶店から歩いて数時間、とある山間の裾野にあるボロボロの空家だった。


「ここだよ」

「なんか、……ものすごく入りがたい雰囲気なんだけど。もうちょっと、なんとかならなかったの!?」


 彼女が僕の部室を眺めながら言う。


「まあ、色々とわけがあってね。それも含めて説明するよ。入って」


 佐伯リリアを部室の中へ促し、僕は家の壁のある一部分を押す。

 封じ込まれていたものが現れる。それは、左右に開かれた扉と一つのボタンだった。


「何これ?」

「エレベーターだよ」


 当たり前のように告げる僕に、彼女は驚愕していた。


「ふぇっ!? こんなボロッちい山の上の家に、何でそんなハイテクなものが付いてるの? まさか、滝川君超金持ち!?」

「まあ、そうなるよね。説明するよ、こっちへおいで」


 ボタンを押し、エレベーターの扉を閉める。そうして僕は彼女をこの家の『金庫』へ案内した。


 それは、地下一階に存在していた。エレベーターから降りた僕は、前方に聳える『金庫』を示す。


 そこにあったのは、アイソレーションサークルが長年にわたってため込んできた金塊だった。

 佐伯リリアは、信じられないという表情をして、こちらを見てくる。まあ、予想通りのレスポンスだ。


「これが、僕らの資産だ。どうして僕の部活が廃部にならないか分かっただろ?」


 そこにある金塊に対して、佐伯リリアが絶句しているのが伝わってくる。しかし、それ以外に、僕には彼女がその感情をオブラートにして別成分の感情を抱いているような気がした。

 そう、喫茶店でも感じたこの感覚……。

 僕の顔に疑惑の表情が浮かんでいたのだろうか? 刹那、彼女から放出されていた感覚が途絶える。


「でも……どうやってこんなにお金を集めたの?」


 僕も、気のせいか、と思い彼女の問いに答える。


「それは次の場所で……。こっちだよ」


 再びエレベーターに乗り込み、更に地下深くへと向かう。

 一瞬の沈黙ののち、佐伯リリアが呟く。


「ねえ、このエレベーター、どこまで行くの? もう一分くらい乗ってる気がするんだけどー」

「この家の最深部に向かってるんだ。もうすぐ着くよ」

「立地もそうだけど、何でこんなに人の目に付きにくいようにしているの? もっと近くにあったほうが楽チンじゃん」

「それは着けばわかるよ」


 佐伯リリアの、エレベーター内の沈黙に耐え切れないと言わんばかりの怒涛の質問を、機械的にさばく。


 彼女の質問が止み再び沈黙が訪れたころ、エレベーターは部室の最下層に到達した。


 僕が次に案内した場所はこの家の『檻』だった。先んじて歩いていた僕は、振り返り告げる。


「僕の部活の内容は……人々に『孤独』を与えることだ。」


 少しの間空間がシジマに包まれる。そして、沈黙が破られたときに彼女が露にした感情で、先ほどの僕の疑念は確証に変わった。


「ハハッ。何それ、すごい面白そうじゃん」


これが、君の隠していた部分、本当の君か……。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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