【第二章】第二十三部分
敗色濃厚に転じた状況を見て、宮殿の空気は変わった。
「これはマズいぞ。せっかくの最強モンスターがくだらないことで壊れてしまったぞ。」
『ガサッ』という音を立てて、メイドが立ち上がった。
「いやいや、陛下。最強っていうのは違いますよ。最強はここにヒントがあるのですよ。灯台下暗しなんですよ。さあ、今こそ自分の殻を破って、飛び出して行きましょう。」
「飛び出すって、この宮殿からどうやって出るんじゃ。引っ越したばかりで家賃がもったいないぞ。てか、我らは外に出ることなんてできないじゃろ。人間の、それも千紗季の精神に住んでいるだけの存在じゃろうが。」
「だからできるんじゃないですか、マジドルの支配を!さあ四の五の言わずに一気に盗みますよ!千紗季の体を憑代にして、このフロアにいるすべてのモンスターをまとめますよ!」
首領とメイドは千紗季と一体化して、かつ他のモンスターを吸収して最大級モンスターになった。最大級とは文字通りデカいということで、ビルの天井や壁を破壊してしまった。高さが二十メートルはある、巨大モンスターの誕生である。
「あれは何だ?怪獣だ!」
官庁街に突如、巨大モンスターが登場したのだから、大騒ぎになった。
暴れ出して、建物をぶっこわす。
10階にいたマジドルセンターはみなやられており、マジドルは復活した綾野、傷だらけのつかさだけが残された戦力だった。
「お局様、どうしたらいいでしょう。あたしたちの力ではとても太刀打ちできないだろう。」
「こうなったら、最後の手段だ!千紗季くんのハートを揺さぶるしかない!」
「はい!」
『ガバッ、ガバッ!』
綾野とつかさは大衆の面前で衣服をすべて脱ぎ捨てた。
「「さらに、揺さぶりを継続、強化!」」
ふたりは向かい合わせになって、お互いの胸を揺さぶり始めた。
周り人々は巨大モンスターとふたりの『ムネフリ裸女』を代わる代わる見ていた。
「お局様、これってスゴく恥ずかしいことではありませんか?」
「いまさら何を。それにマジドルは国家公務員だ。天下国家のために、身を犠牲にするのは当然のこと。それに体を見せるだけなど、どうということはない。減るもんじゃなし。」
「で、でも無垢な体を晒するのって、現在価値が減りませんか?」
「まさに価値観の問題だ。減らないと思えば減らない。むしろ、オトナ業界への進出のきっかけになればプラスだろう。契約金は高いぞ。枕より稼げるかもな。」
「イヤですよ。それって契約金だけが高いだけですよ!」
「やけに詳しいな。」
「ウワサで聞いただけです!」
「よし、この態勢でバトルするぞ。バトルって、こんな揉み合い状態でですか?」
「だからこそ、効果的なんだよ!」
ふたりは胸の揉み合い継続のままで、朋樹に抱きついた。朋樹は意識を取り戻したばかりだったが、突然の異様な行為に戸惑っていた。
「つかさ、センター、いったいどういうつもりなんだ?何がしたいんだ?」
場所は巨大モンスターの眼下である。
建物を殴って破壊していた巨大モンスターの手がピタリと止まった。
「ド、ド、ドムオ。」
「千紗季が何か言ってる!」
つかさは巨大モンスターの口元をじっと見ている。
「ド、ドムオグイ。」
「と、ともき、って言ってるよ!」
一方、朋樹は強烈な刺激を受けて、目を白黒させていた。
「やめろ、こんな破廉恥なことをしていったい何になるというんだ!」
朋樹は、ムネフリ裸女を見て、言葉とは裏腹に目がこれ以上ないぐらい緩みまくっていた。
「これがホントの枕営業なんだ?とろーん。」
「ドモギ、グ、グヤジイ~!」
巨大モンスターは頭を抱えて、苦しんだ後、自分の頭を殴り始めた。
『バズ、バズ、バズ』という殴打音が響いて、紫色の血液が大量流出し、巨大モンスターは地響きを立てながら地面に突っ伏した。すると、巨大モンスターはバラバラになり、元のモンスターが倒れていた。
そこから小さな2つの光が現れた。
「陛下、こちらですよ。また他の体を探しますよ。」
「うむ。」
光はそのままいずこかへ飛んで見えなくなった。
「ううう。」
倒れていた千紗季は意識を取り戻した。
「アタシ、どうしちゃったのかしら。い、息が苦しいわ。だ、誰かがキスしてる。朋樹ね。うれしいわ!」
「私もだ。千紗季くん。」
キス決行者は綾野だった。
「ゆ、ゆりゆりだ~!千紗季はそういうシュミだったのか~!」
ふたりのそばで、朋樹が血走った目をしたまま、頭を抱えていた。




