【第二章】第十一部分
「腕相撲なら、触れる部分は手だけだし、問題ないわね。」
綾野と千紗季は、どこからともなく用意されたテーブルに腕を置いて向かい合った。
「よし、じゃあ右手を出してごらん。」
「わかったわよ。こうすればいいんでしょ。」
肘をついて手を握りあったふたり。
「じゃあ、よ~いドン!の合図に従って、試合開始だよ。よ~い」
千紗季の声が綾野の言葉を遮った。
『ダー!』
千紗季が一気に走り出した。
「先手必勝よ。これがアタシのオリジナル戦略よ!決して卑怯なんかじゃないんだからねっ。」
卑怯のど真ん中を行く汚いやり方で、腕に力を込めた千紗季。腕は限りなくテーブル面に接近していく。
「うわ~、負けそうだよ~。」
いかにも負けそうにない綾野の表情が千紗季の目に映り、心をかき乱す。
「バカにしてるわね。力が入ってる様子もないし。」
勝ってるのに負けてるようなプレッシャーを受けつつ、千紗季はほんのわずかずつ押していき、テーブルまでの距離が一ミリを切った。それはさらに縮まり、ついに0.1ミリを切った。
「ぐぐぐ。」
千紗季は全体重を腕にかけた。
「テコでも動かないわ!」
「いやあ、これは実にキツいなぁ。」
余裕を超えて嘲笑な綾野はさらに千紗季を追い込んでいく。
「ムムム~!ガアアア~!」
すでに限界に達していた千紗季の口からは、あまりの噛む圧力で血が流れ出していた。
「く、苦しいなあ、もうダメだよぉ。」
「全然ダメ出ししてないわね!ブハァ!」
溜まっていた空気を思いっきり吐き出した千紗季。
「負けたわ。強過ぎるわ。あんたがどれだけ力を入れてないのかすら、わからないわ。」
「そうか、私は全力を尽くしたつもりだが、相手の力量に合わせたバージョンだけど。」
「もうムカつくわ!」
「それならこうしてやるよ。ぶちゅう。」
「は・・・。」
いったい何が起こったのか、わからない千紗季。
「このマシュマロのような柔らかさと甘さ。最上級の出来映えだな。デリシャス。」
「ちょ、ちょっと、あんた、アタシに何してくれたのよ!」
「いや、タダの味見だけど。」
「バカ言ってるんじゃないわよ!い、今のって、キ、キ、キ~!」
「認めたくないなら、それ以上は言わない方がいいんじゃないか。」
「そ、それもそうね。タダのスーパーの試食だわ。ア、アタシの初めて認定証をおろしたりしないわよ。」
「うん。自分の価値観の中で整理してくれ。さて、テストは終了だ。千紗季くんを付き人2号として取り立ててやるよ。」




