【第二章】第十部分
それから1ヶ月が経過した。
こちらはいつもの宮殿。
「今の流れからすると、大物が釣り上げられるかもじゃな。チャンス到来じゃ!
そうですね。しっかりやってくださいよ、陛下。全力で応援しますから。ポリポリ。」
ソファーで横たわる姿勢を堅持しながら、頭をかいているメイド。
「その態勢のどこに全力の要素を見いだせばよいのじゃ?」
「全力を体で表現する時代は終わったのですよ。リラクゼーションこそ、精神を安定させて、全力支援を発揮できるというものなのですよ。ポリポリ。」
「緊張感が無さ過ぎるわ!」
千紗季はつかさと一緒にセンター綾野のところへ向かっていた。しかし、センターの個室ではなく、トレーニングルームに案内された。
「こんなところでセンターに会うの?」
「そうだよ。」
「君が新人マジドルの千紗季くんか。私は春日綾野だ。よろしくな。」
ふたりの前にすっくと現れた綾野。
身長は千紗季と同じぐらいだが、スタイル的には女の武器を上から下まで完全装備しており、客観的に見て千紗季ははるか遠く及ばない。要はボン、キュッ、ボン、でしかも美しい筋肉に恵まれて、全身がセレブ級である。その体躯に似合わず、青い目は愛らしく、小振りな鼻と水蜜桃のような唇はあまりに可憐で、白い頬にマッチしている。典型的という表現では失礼に当たるような美少女である。
「どこかで会ったことあるような気がするわ。もしかしたら、区長のところで助けてくれたのはセンター?」
「さあ?細かい仕事の成果は記憶しない主義だからな。多すぎて覚えていないというのが正解かな。」
「そんなものなんだ、マジドルセンターって、キャリア官僚で頭よさげなのに大したことないんだ?」
「こ、こら、千紗季、お局様に失礼だろ。それにタメ口やめろ!」
「別に私は構わないぞ。言葉使いに気を遣わせるというのは、上から目線ということになる。国民目線で思考、行動するのが公務員の務めだからな。」
「よくわかってるじゃない。それにお局様って呼び方が何ともオバサン臭くていいわ。」
「バカ!お局様というのは、徳川時代の春日局様の尊称として使われてるものだ。オ、オバなんとかと一緒にするな!」
「わかったわ。それにしてもスゴい美少女ねえ。アタシには負けるけど。余計なことを言うな!」
「ははは。神経はかなり太いようだな。体内情報の行き来スピードはなかなかのモノなんだろうな。」
「よくわからないことを言ってくれるわね。」
「そんなことはわかる必要もない。せっかく私と話しができるなら、言葉ではなく、体でやり合った方が早いな。」
「か、体?お局様はまさかのゆりゆりなの?」
「やめろ!千紗季、度が過ぎるぞ!」
「よいよい。私も美少女は苦手ではないからな。ほら。あ~あ。」
頭を軽く撫でられたつかさは顔を真っ赤にして倒れてしまった。
「つかさ、どうしちゃったの?フン。ソイツは大丈夫だ。息はしてるし、命に別状はない。さて私に会う以上は、何か目的があるのだよな。挨拶だけじゃないだろう。」
「そうよ。アタシはセンターがいるのが邪魔なの。いつかはセンターを打倒するのが責務だから、そのためにセンターの力量を確かめておく必要があるっていうことよ。」
「そこまで直球で自己主張するとはねえ。実にいい心がけだ。」
それまでほとんど無表情だった綾野の口元が緩んだ。
「な、何よ。気持ち悪いわ。美少女だけど。」
「ははは。別に取って喰おうって、ワケじゃあるけど。」
「喰う気マンマンなの?」
「冗談さ。じゃあ、まず体力テストでもやるかなぁ力比べといこうかな。」
「いいわよ。何をするのよ。言っとくけど、か、体の密着プレイは断固拒否するわよ。」
「ちっ。」
「今、何かいかがわしい促音が聞こえたような?」
「空耳だ。聴覚検査を受けた方がいいぞ。それはともかく、そちらのニーズに応えよう。力比べは、腕相撲だ。」




