【第一章】第六部分
それから数日後、千紗季専用の個室で山田が千紗季に立って話しかけている。
山田は黒いメイド服を着ており、千紗季は、深紅のアイドル衣装である。スカートや腕のところに白いフリルが付いており、アイドル衣装であることに変わりはないが、シルクやベルベットなど、素材の高級感は地下ドルの衣装とは天と地ほどの差があった。
千紗季は一人用の黒い革張りの高級ソファーにどっかと腰掛けている。
「これからセンターに挨拶に行きますので、ご用意ください、千紗季さん。」
「ちょっと、アタシの呼び方が違うわよ。さん、じゃないでしょ、様、千紗季様でしょ。」
「あっ、そうでしたね、千紗季様。まだ慣れてないものですから、お許しくださいませ。」
「これぞ下剋上、いや元々主客転倒していた矛盾を解いただけよね。どこから見てもアタシはスーパーアイドルで、豊島区マネージャーは、ただの付き人だったんだから。これまでお世話になった数々をのしをグルグル巻きにして返してあげるからね。」
「いかようにでもしてくださいませ。芸能界は一枚違えば家来同然、一段違えば虫ケラ同然、長らくこの世界にいる以上、それは骨身に染み付いていますから。」
言葉とは裏腹に、目はいきり立っているメイド服の山田。
「ここまで待遇が変わるとはね。実にいい気分、まさにお姫様扱いだわ。」
千紗季の言う通り、生活が地下ドル時代とは様変わりした。
ほとんど行ってない学校の成績通知はトップテン入り。受けた覚えのないテストが平均90点、それはマジドルポイントが学校の成績にされたのであった。
握手会は個室も可能になった。特にVIPには一人ずつ応接室で枕営業ができるようになった。客も一流企業幹部、大学教授、IT実業家とかになってきた。買ってくれる枕の値段が二桁違った。
長い列を捌く握手会も時間制限付きで座ったままである。それでも客は並んでくれる。
パフォーマンスである水芸には磨きがかかってはいなかった。でもオールOKという好待遇であった。
「さあ、ウチのチームの上部地上ドルのセンターのところに挨拶に行きますよ。」
「面倒くさいわ。向こうに来てくれるように言えないの?」
「そんなこと、できるわけないだろう!いや、できないでしょう。地下ドルグループがたくさんあるように、地上アイドルにも多くのグループがあります。その中のひとつ、AYN48、すなわち、チームアヤノ48は上位ランクにある格調高いグループです。」
「へえ~。じゃあつかさはそんなスゴそうなチームのメンバーだったんだ。さすがアタシの真友だね。」
「そういうことです。チームアヤノの名前は、センターの春日綾野。このマジドルにちゃんと挨拶をしておかないといけませんから。」
「ふ~ん。わかったわよ、行けばいいんでしょ、行けば。」




