【第一章】第四十二部分
朋樹は一言叫び声を上げて、気を失い、その場に倒れた。
「急病人です!あたしが病室に連れて行きます。」
つかさは軽々と朋樹を持ち上げ、お姫様抱っこして、走り去った。
つかさのあまりに迅速な行動ぶりに、騒ぎはまったく起こらなかった。
魔法少女省内の病室で朋樹は寝ていた。
「ここはどこだ?」
「病室だよ、魔法少女省の。」
「そう言えば、お腹に激痛が走って、そこから記憶がなくなったような。」
「朋樹くん、あたしのことわかるかな?」
ベッドの横にある椅子に座っているつかさ。
「つかさ?久しぶりだな。」
「オレ、握手会で倒れたらしいな。でもつかさがどうしてここにいるんだ?」
「どうしてって、あたしはずっと前から握手会に並んでいたんだけど。もちろん、マジドル側でね。」
笑顔と苦渋を足して2で割ったような複雑な表情のつかさ。
「えええっ!つかさはマジドルだったのか!で、でも普通の高校に進学したんじゃ?マジドルって、魔法少女省の官僚だろ?」
「あたしは、ノンキャリア。正職員のノンキャリアが大半だけど、夜学のように、昼間は高校に通い、夜だけ勤務するコースもあるんだよ。働き方改革で人材を広く集めるやり方になってるんだよ。」
「へええ。しかし、つかさがマジドルやってたなんて、全然知らなかったよ。」
「知名度はまだまだだからね。アンダーガールズの末席で、握手会出席メンバーにやっと滑り込んでる状態だからね。でも朋樹くんがあたしを見つけられなかった理由はわかってるけど。」
「オレがセンター一筋だってことだよな。もう完全にヲタ芸にハマってるダメ人間だけどな。アハハ。」
「それは違うよ!」
『ダン!』と音を立てて、つかさは立ち上がった。
「い、いきなりどうしたんだ?」
「あたしはわかってるよ、朋樹くんの気持ちの居場所が。ずっと、その場所から離れたこと、ないよね。朋樹くんは、いまでも千紗季のことを想ってるんでしょ。それはわかってるよ。」
「い、いきなり何を言い出すんだよ。」
「それはあたしにはわかってることだから答えなくていい。でも約束して、千紗季を破ったら、あたしと付き合って。」
「はあ?言ってる意味が全然わからないぞ。」
「わからなくてもいい。それはやがてわからせてやるから。」
「やっぱり奇妙なことを言ってるように思えるけど。」
「ならば、この待ち受け画像、バラすかな。」
「それがなんだと言うんだ?」
「さっき荷物調べたら、いろいろ出てきたよ。見ているだけでムカつくんだけど。」
「そ、それは!」
つかさは朋樹のバッグを広げた。そこには写真アルバムがあった。表紙はセンターの笑顔であったが、一枚めくると、千紗季の写真で満ちていた。




