【第一章】第三十八部分
「もちろんわかるわけないよ。」
「そうでしょ。それならもう用はないわ。アタシは人を殺したのよ。アタシが殺した相手はもう戻らないわ。帰ってよ。」
「アイドル辞めるかどうかは勝手。ほかにもマジドルはいるけど、モンスターと戦っている以上、傷つく者や死に方みんな仲間の死を乗り越えて使命を果たしている。他人の死の向こうに見えるもの、それは自分の生、ここであんたが死ぬのは構わないが、自殺するのは代わりに死んだ人間を冒涜することではないか、他人の目の前で死ぬことはその人に命を預けること、死んだ人間から預った命は自分だけの命じゃないよ。」
「うっ。たしかにそうかもしれないけど、でも・・・。」
千紗季は言葉に詰まってしまった。
「千紗季、これを見るんだよ。」
つかさは一枚の写真を千紗季の暗い顔の前に晒した。
「こ、これは朋樹の写真!?」
それはステージの最前列に立って、ヲタ芸をセンターに披露しているシーンであった。
千紗季の顔色が一瞬紅潮した。
「それが何なのよ。」
「じゃあ、あたしは帰るよ。」
つかさは楽屋出入口にさしかかった時、ほんのわずかに目配せした。そこには、もうひとりの人間がいた。
その人間は、楽屋の出入口で、奥にいる千紗季に顔を向けた。パーテーションがなくなって、椅子に座っている千紗季の姿が露わになっていた。
出入口の人間は、なぜか指を立ててポーズを取った。
「何あれ。励まし?バッカじゃないの。」
出入口から人影は消えていた。
「朋樹、来てくれたんだ。」
千紗季の表情に血の気が復活して体温を上げていた。
こちらはゲリラの宮殿。
「市長はモンスターになったけど、結局死ななかったなあ。これじゃあ、社会を大混乱させることができないぞ。」
「そりゃそうですよ。真のマジドルじゃなくて、地下ドルではバトルレベルが低過ぎますから。闇雲にモンスターを発現させても魔力の無駄遣いですよ。我々は自分たちで直接人類を攻撃するのではなく、夢枕モンスターの出現による社会の混乱が目的ですから。手段であるモンスター発現はよく考えて行動しなあとダメですよ?」
「じゃあ、妾はどうすればよいのじゃ?」
やはりソファーに横たわったままのメイドが無表情で答えた。
「次のターゲットはマジドルそのものにしましょう。」
「そんなことをしたら、モンスターを倒す者がいなくなるではないか。」
「モンスター自体を世界に解き放つのはどうでしょう。ゾンビ映画のような恐怖のカオス状態が起これば、世界は一気に大混乱ですよ。」
「それはいいアイデアじゃのう。」
「それでは、魔法少女省のマジドルに、たくさんのモンスターが倒されてますよ。そいつをターゲットにしましょう。」




