【第一章】第三十二部分
そもそも地下ドルには魔力がなく、ルックス、メイク、運動神経主体のパフォーマンスが主流なのに対して、古典芸能的な水芸は実に目新しいものに映ったらしく、千紗季はセンター公方として、人気急上昇した。
「センター公方様、すごいよ~。ステージだけじゃなく、枕の販売もダントツ一位になってるよ~。」
握手会、つまり枕即売会においてもお好み枕は、ファンの目の前でのアクロバティック水芸という千紗季は大きな集客力を誇った。ビニールでくるんだ枕を浮かしたり、枕から水が出るように見せたりなど客を楽しませる技術も十分になっていた。
タミフルが千紗季を称賛すると、付き人たちも右へ習えとなり、今やこのフロアでは千紗季に並ぶ者はいなくなった。
「ここはアタシの王国よ。」
千紗季の衣装は金色主体に変わり、成金趣味を全面に出してきた。その方が水芸によく映えるという事情もあり、千紗季の派手さは日増しに高まっていった。
「センター公方様、今日の出番スケジュールはこうだよ~。公方様登場までに、タミフルたちがステージを温めておくからね~。」
「うん、ういやつ。よきに計らえ。まあ、アタシひとりだけでもステージ温度を三十度上げられるけどね。」
「センター公方様。エアコンが壊れちゃうよ~。少しはエコを意識してね~。」
「ごめんね。アタシがくしゃみをすると、会場は黒死病が蔓延するわね。」
「センター公方様。それって冗談でもないよ~。」
「ああ、なんて地下ドルとして罪な存在なのかしら。神は荷物を与えたもうたのよ。」
ちょっと前までは、お荷物だった千紗季であった。
宮殿の中で、ソファーで寝ているメイドを横目で睨みながら、陛下が地団駄を踏んでいた。
「なんか、面白くないよ。世界をあっと言わせるようなことってできないのか?」
「あ~、もうめんどくさいですねえ。世界は広過ぎてムリですけど、そこそこのエリアなら、ひと騒ぎさせることはできますよ。というか、そろそろ夢枕モンスターを仕込んだ枕を要人に渡すタイミングが来てますから。あとは陛下が自分でフォローしてください。ぐうぐう。」
メイドの鼻からはマンガ風船が膨らんでいた。
「豊島区マネージャーから紹介された相手って、ここにいるのね?」
「そうだよ、センター公方様。この建物のトップだよ~。」
千紗季とタミフルは、とある政令指定都市の市庁舎の前に立っている。
「こんな所に来れるなんて、ビックリでもないわね。市民ならフツーに入れるところじゃない。」
「そんなことないよ~。このレベルに営業に来れるなんて特別だよ~。このミッションを果たしたら、地上への道が開かれるかもしれない、本来なら地上アイドルの守備範囲だよ~。この客は地上アイドルの仕事がキャンセルになったから、回ってきた玉の輿のようなものだよ~。」
「タマ残し?変わったプレイなのね。」
「ちがうよ~!でもセンター公方様、枕営業のバリエーションが増えてるね~。この、エロサドバトル~!」
「言ってる意味がわからないわ。でも痴情への道とか、すごいわね。」
自爆トークのような会話をしながら、市庁舎に堂々と入っていくふたり。
「枕営業は基本お忍びだから、今日は目立たないように、タミフルもセンター公方様もセーラー服着用だよ~。」
しかし、ふたりともサングラスにマスクであり、さらにセーラー服は赤色で、あきらかに制服ではなく、コスプレカテゴリーに分類されることから目立ちまくっていた。
「こういう場合は、変にコソコソしないで、堂々と受付に行くのがいちばん怪しまれないわね。」
「その通りだよ~。さすがセンター公方様!」
超目立ちキープ状態で、一階受付嬢に向かうふたり。
「アタシ、真北千紗季って言うんだけど、市長いる?」
タメ口の敬語なしの千紗季。
「地下ドルの千紗季様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします。」
「そう、アタシのこと、よくわかったわね。十分仕込まれるわね。」
パーフェクトな上から目線で、受付嬢に追随する千紗季たち。
「さすがセンター公方様。威厳に満ちてるよ~。」
日々の地下ドル活動がうまくいって、千紗季はすっかり増長していた。




