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【第一章】第三十一部分

「次はダンス練習だよっ。」

厳しい顔を継続中のタミフルが号令をかけると、全員が足を高く上げて、キックのポーズから、腕を横に広げたり、リズミカルに動く。やはり千紗季はついていけず、ひとり安来節になっていた。

「ほらほら、ワンツー、ワンツー。センター公方様、全身の筋肉に目配りしてっ。」

「ええっと?」

まったくついていけない千紗季。

「それでセンター公方様とか呼ばれるのは恥ずかしいよっ。やっぱり、元のポジションに落ちてもらおうっかなっ?」

「元って、まさか、コソ泥?」

「そうそう、コソ泥って、ちがうっ!ソコドルだし!そんな余裕ぶっこくセンター公方様には、お仕置きだよっ。お笑い柔軟体操開始っ!」

全員が立ち上がって、柔軟を始めた・・・のではなく、一斉に千紗季に接近していく。

「お笑い?今から芸人のショーでも始めるのよね。は、は、は。」

ひきつった笑顔を見せた千紗季は、脂汗たらしたあと、全員による全身くすぐりという恐怖の仕業に、体を動かしまくって立派に柔軟体操を完了して果てた。

「じゃあ、センター公方様には昨日までと同じ生活に復帰してもらうよっ。呼び方だけは変えないでおくから、実力で地位を取り戻してねっ。」

タミフルの声が、倒れたままの千紗季に届いたかどうかはわからなかった。


誰もいなくなった練習ステージで、ようやく体を起こした千紗季。

「あきらめるとか、ぜったいに言わないからね。バカにするんじゃないわよ!」

意地という反発心は元から内臓されている千紗季であった。


それから特訓が続いて、二週間が経過した。

今日の地下イベントが始まった。そこそこ多数の客が集まっていて、会場外はざわついている。

「センター公方って誰だよ?」「どんな変則地下ドルなんだ?」

初めて聞く言葉は、ディープな地下ドルファンに刺さった。

コワいもの見たさでステージに集まった地下ドルファン。ワクワク感じに溢れていた。

『センター公方御披露目会』と銘打たれたイベントであり、ステージに立ったのは千紗季ひとりだった。

アイドル衣装を着た千紗季は今まで通りの水芸を披露した。

「果たしてこんなものがウケるのかしら。」

千紗季自体が半信半疑、いや1対9で信じていなかった。

「あれ。これって、前に見たことあるヤツじゃね?」

期待感があればあるほど、失速時には底なし沼に落ちてしまう。

「や、ヤバい。やっぱりだめだわ。」

「センター公方様!力を抜かないでっ!」

舞台袖からタミフルが大きな声を出した。

「こういう時って、力を抜いて、とか言って緊張感をほぐすんじゃないの?でももう後戻りはできないわ。言う通り、最大級の力を入れてみるわ!」

「は、は、ほう~。」

狂言役者のような奇声を発して、踊る千紗季。

サッカー選手のオーバーヘッドキックをしながら、手のひらから出る水はきれいな弧を描いていた。力が入り過ぎた分、体はトリッキーな動きになった。すると、水は予期せぬ方向に動いて、まるで生き物のように見えた。自然界で、外敵に襲われた動物が意外な動作で逃げ切るのと同じ。それは観客には大いなるサプライズとして映った。



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