【第一章】第二十六部分
タミフルはどんどん枕を売っていた。それも高額である。
サービス内容は会場のアイドルたちの後ろの大きな掲示板に表示してある。
『並、一万円握手。』『上、五万円間接キス的な指でサービス。』『特上、十万円ハグ。』『お好みは別途アイドルと相談。』
つまりお好みは何でもありとなる可能性がある。
掲示板を見ている千紗季は目を剥いていた。
「これって、完全に世間で言う枕営業じゃないの!?」
「よくわかってるじゃないか。枕が営業は訪問販売だけじゃないからな。握手会の方がたくさん捌けて、手間が省けるぞ。」
いつの間にか、山田が千紗季のそばに来て囁いていた。
千紗季は他の地下ドルの行列を見た。握手だけで済ませている者は少なく、大半がハグで稼いでいる。
「みんな、よくやるわね、あんなキモイことを。」
千紗季は呆れて漠然と眺めていた。
それぞれの地下ドルの上にLEDプレートが付いており、枕買い上げ金額と累計が表示されている。つまり、客は握手やハグなどのどれを選んだのか、即座にわかるシステムである。客の選んだコースが全開となり恥ずかしさを隠すことができないという、客にも厳しいシステムである。プレートの効果で、客が支払額以上の不埒を働かないように歯止めをかけるという効果もある。
あちこちで、地下ドルがハグする度に、『萌え~』とか、『ガブガブ』とか、『ドッピューン』とか、奇声があがり、地下ドルの笑顔が引きつるという凄惨な光景が天井の巨大スクリーンに投影されている。
地下ドルには実に過酷なシステムであるが、地下ドルの苦悶の表情は、客へのサービスでもある。
一方、タミフルの方もハグが相当な数であることがプレートでわかり、かなり大変そうである。
千紗季は行列の様子をじっと見つめていた。
「なんだか変だわ。」
並んでいる客の回りに多数の地下ドルが近づいている。
地下ドルの多くはいきなり客にハグ。握手とか、自分の唇に付けた指を相手の唇に当てるというリップサービスはほんの少し。中には大胆にも水着に着替えてハグという大サービスもある。
「何あれ?もしかして、センターの取り巻き地下ドルを枕営業に使ってるってこと?」
そんな千紗季の疑問を読んだのか、離れているタミフルは邪悪な笑顔を千紗季に送った。
「げっ、何これ!」
それは巨大スクリーンにも投影された。
「これじゃあ、1対1バトルにならないじゃない!」




