【第一章】第二十五部分
「まさか、ウソ泣きで、親衛隊を呼んだの?なんてあくどいアイドル!?」
「てへっ。アイドルのセンターならではの力だよ~。」
「卑怯だわ!」
「何を言ってるんだよ~。これが格差社会ってものだよ~。」
「く、悔しいわ。」
「おっと、そのセリフはまだ早いよ~。勝負はこれからなんだから~。握手会は、枕即売会なんだから、単純にたくさん売った方が勝ちだよ~。」
「それでは握手会を開催します!みなさん、財布を裏返して枕を買ってください。クレジットカードも使用限度超過、大歓迎ですよ!この握手会ではクレジットカードは限度超過しても使えますから、安心設計です。どんどん限度超過してください!」
会場の司会は山田が行っていた。
「それではお目当てのアイドルのところに整理券順にお願いします。」
客は山田の指示通り並んだ。しかし、入口と整理券番号1番の間には20メートルの距離が置かれた。
『ズカッ、ズカッ、ズカッ。』
20メートルの隙間に、30人が割り込んできた。
「ドア、オープン!」
山田の掛け声でドアが両開きされた。
会場の中では、アイドルひとりに一つの机。アイドルはみんな立っている。机の後ろには、いかにも安物っぽい枕が積まれている。
会場で一カ所異彩を放っている場所がある。それは、ど真ん中にある長いテーブル。他のアイドルの机を5つ並べたような長さに、金色のテーブルクロスが掛けられている。
入場した客が脱兎のごとく、アイドルに走り寄り、10人前後並んだ。
しかし、真ん中だけは、割り込んできた30人を先頭にして長蛇の机になっている。
会場のいちばん隅に千紗季はいた。
「真ん中に並んでいるのは、さっきの親衛隊だわ。それに比べてアタシのところはゼロ。」
千紗季の水芸の人気では知れていた。




