【第一章】第二十三部分
楽屋のいちばん奥にひときわ目立つ女子が座っている。
ドレッサーの鏡は他と違い、有名絵画の額縁のように立派な縁取りが細工されている。台に並べられている化粧品も他の女子よりも高価なもので、ワンランク上の椅子にも素材のよい柔らかいそうなクッションがオンされている。
椅子に座っている女子のふんわりした黄色のツインテールが、肩にちょこんと乗っかっている。赤い目は少々マンガのヒロインのように輝いている。丸顔で、目以外は全体的に小ぶりである。体は小学生のように小柄であるが、胸はしっかりとしたボリュームを誇っている。金色のジャージを着ており、それがこのフロアのセンターの証しである。
「あ~。喉が乾いたよ~。」
「はい!タミフル様!」
赤いジャージの女子がすかさず缶のオレンジジュースを持ってきた。
「ありがとう。グビッ、グビッ。グビッ。」
口が小さいせいか、ちょっとずつしか飲めないようである。
「復帰して初日なのに、遅刻だわ!」
慌てて走りながら楽屋に入ってきた千紗季は、手に持っていたステージ用のブレスレットを落としてしまい、ゴロゴロと奥の方へ転がっていった。ちょうど椅子から立ったタミフルがそれを踏んずけて、ネコさんパンツが世間にあいさつした。
「いたた。いたいよ~。超大ケガだよ~。複雑骨折に0.1パーセント近い大打撃だよ~。もう絶命寸前だよ~!」
タミフルは膝を抱えて大袈裟に、のた打ち回っている。
「ごめんなさい。でもそんなにひどいケガなの?0.1パーセントとか言ってるし。」
「その声と顔・・・。」
下から見上げたタミフルの視線がフリーズした。そしてやおら立ち上がったタミフル。
「んた、生意気で悪名高い新入りね~。たしか名前は、ちっさ。」
「ちっさじゃないわよ。真北千紗季。」
「あたしはセンターの百合根多美様、通称タミフル様だよ~。ド新人がいきなりタメ口とはいい度胸だね~。マネージャーはいったいどういう教育をしてきたんだろう~。タミフルがお仕置きしてあげる~。」
「お仕置きですって!まさか、一連のイジメはあんたが首謀者ね?」
「イジメ?なんのこと~。」
にやけて目を伏せたタミフル。
「間違いないわ。入院の恨み、忘れてないんだからねっ。百倍返ししてやるわ。」
「いいね、いいね~。どんどんポチるよ~。ならばバトルする~?」
「いいわよ。でもあんたのことだから、卑怯な手を使いそうだわ。バトルなら1対1よ。」
「それでいいよ~。じゃあ、明日の握手会でやるよ~。」




