【第一章】第二十二部分
こうして、ライブ会場は大騒ぎとなり、公演は途中で中止となってしまった。
「あ~あ、とんでもないことをしてしまったわ。それにアタシがあんな魔法が使えるなんてビックリだわ。でも水芸魔法じゃ、タダの色物で、マジドルの夢枕モンスター退治に、何の役にも立たないわ。これじゃあ、マネージャーに、こっぴどく叱られるのは確実だし、最悪は解雇になってしまうかも。」
千紗季は、すっかり意気消沈して、足取りが極めて重くなっていた。
その状態で、事務所に入っていった。
千紗季は、なるべく音を立てずに、事務所に入ろうとしたが、そんな時に限って何にもないところでつまづいて、椅子に座ってタバコをくゆらせていた山田にのしかかってしまった。
「ごめんなさい!」
「はあ?いったい何してるんだ千紗季。もうお眠の時間帯なのか。それにステージで大変なことをやらかしたって言うじゃないか。」
山田は鬼の形相で千紗季に迫った。
「よくやった。あの魔法、水枕はすごいぞ。観客の目を引くため、体を張るとか、ソコドルの鏡じゃないか。」
山田の表情は鬼をキープしている。
「豊島区マネージャー、もしかして、喜んでるの?」
「そりゃそうさ。マネージャーにとって、商品が売れるほど、嬉しいことはないからな。」
豊島区マネージャーは、嬉しいと鬼の形相に変わるということを知った千紗季。
「よし、千紗季の名前も浸透した。新人ながら一気に有名になった。これで枕営業もどんどん指名が入るぞ。ワハハ。」
山田の高笑いに隠れて、事務所の奥で黒い影が揺らめいていた。
こうして千紗季は、正式なメンバーに昇格して、ポスターに写真と名前が入った。
ステージでのダンスと歌は枕形ハットの効果もあって無難にこなせていた。
またステージを重ねることで、自然にパフォーマンスが身に付いてきた。もともと千紗季は、運動神経は悪くなく、ソコドルとしては相応のレベルになっていた。




