第77話、やっぱり物語を引っ掻き回す、風の歌姫のせいだった
SIDE:ラル
【カントール】と呼ばれる世界へやってきたこと。
ラルからしてみれば、異世界への冒険にいつもついてまわっていた、救世の使命も。
今回ばかりはやってきた理由がほとんど夜逃げ、脱走にも近いものであったから、縁はないと思っていたのに。
結局のところ、ラル自身の好奇心と物語の中心となりうる主人公気質が束の間の傷心旅……骨休め羽休めを許容することはなく。
自由気ままな【風】に愛されしものらしく、事態をその度引っ掻き回すトラブルメーカーであるローサに引っ張られるようにして、相対することとなった、少なからずこの世界によろしくない影響を与えるであろう存在。
正直に言えばラル自身も、その全容をしっかり目の当たりにしたわけではなかったのだが。
ラルの中にある、救世主としてのセンサーのようなものがしっかり反応したからには。
皆が言うように召喚される寸前であった存在は、『魔王』と呼べるような存在であったのだろう。
そもそもが、対する相手としては相応しい存在が他にいそうではあるのだが。
長く厳しい戦いになることをよしとしなかった救世主さまは。
がっぷりよつで戦いになってしまう時点で美しくないと言わんばかりに開発、創り出したのが……三種合成最上級魔法……通称救世主さま御用達なご都合主義満載魔法である。
本人に自覚があるにせよないにせよ、救世主などと呼ばれて久しいラルではあるが。
そういったところは、生まれながらにしての魔法使いの矜持があったと言えよう。
ちなみに、そんな彼女が本当になりたかった職業は商人であったりする。
お金を稼ぎ儲けたりすることが大好きであるのは、故郷において公然の秘密でもあったりした。
当然、『夜を駆けるもの』として街へ下り様々なお願いを聞く時であったも、少なからずお決まりだからと言わんばかりに報酬をもらっていたのは確かで。
……話は逸れてしまったが。
そんな埒外で語りすら破壊しかねない【デルカムラ・レイバック】は。
後にラルがよくよく調べ上げ理解したところによると。
世界の危機を、誰かに降り注ぎかねない悲しみを、その選択肢ごとなかったことにするものである。
もちろんそれは、囚われ召喚の贄にならんとしていた者達にも有効で。
周りが見えなくなるほど焦り狼狽えていたようで、ラルとしては彼らの存在も当然折り込み済みであったわけだが。
恥も外聞もないというかついさっき見た記憶がある、自由奔放な風の彼女のいきなりの土下座っぷりを見せられてしまって。
どこか身内のような部分もラルの中にはあったから。
急にどうした恥ずかしいからやめろよぅ、なんて内心思いつつもなんとか宥めすかして起き上がらせた後。
しかし、おかげですべてが腑に落ちたと。
問答無用でうまくいくはずのご都合主義時間削減魔法に、ほころびが生じてしまったわけを理解する。
「……成る程です。おかげさまで謎が解けましたよ。ローサが気を使って囚われの方々を避難させてもらっていたのですね」
「申し訳ない……。出過ぎた真似をっ」
「いえ、非難してるわけではないのです。ただ、その後を知るために先行してもらったリル……私の使い魔なのですが、行く場所向かう場所でその姿に覚えがある人がいて、そのほとんどがそれまでの事情をご存知のようで。どこへいっても拝まれ崇められてしまう助けてくれ、だなんて報告があったものですから、不思議だったんですよ」
「おぉ、どうやらローサさんが使った時魔法は受けた対象をランダムに近距離転移させる【バッシ】ですか」
「あれでしょ、目に浮かぶよ~。何かこわいのが近づいてきそうだって、焦っちゃったんだよね」
「ありがとう、ローサねぇ。みんなをたすけてくれて……」
そっちの非難ではないですよ、とか。
無表情なままで民衆に囲まれて、神のように崇められつつも内心では切実に助けを求めているリルがいたたまれない、とか。
相変わらず【時】狂いに磨きがかかっていそうな残念お姉さんなリーヴァとか。
からかいつつも、救世主さまがこわいものであると公言してしまってるイゼリは大丈夫だろうか、とか。
涙ぐんで真摯に感謝の言葉を述べてくるアイに、平伏することしかできないでいたローサも照れて謙遜していたりして。
「……ふふふ、何だかとっても青春ねぇ? 私も加わりたいわぁ」
そんな、ある意味締めのようなエイミの言葉に。
エクゼリオ一家がそろってしみじみと頷いていて……。
(第78話につづく)
次回は、6月4日更新予定です。




