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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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73/116

第73話、聞いてくれる、見てくれる人がいるから物語は紡がれる



 

SIDE:ローサ(inサーロ)


 

ここまでくると、俺が元あるべき姿に戻れないのは。

十中八九我らが救世主さまの願いによるものであると気づかされてしまって。


その事については納得するしかないというか、段々慣れてきてしまって。

元の自分を忘れてしまいそうで、そこはかとない恐怖に襲われてはいたけれど。


それより何より未だ慣れないのは。

申し訳なく、いたたまれなくなるほどのラルちゃんの近さと過保護さであった。

 


ラルちゃんの故郷における今の自分……『ローサ』の記憶というか思い出によれば。

仲は良い方で恥ずかしくも友と呼べる間柄らしい事は重々承知していたけれど。

一人で偵察に行かせてもらえないほどに心配されてしまうのは想定外というか、むず痒いというか。

守るべき存在の範疇だと認識されているのは、自分が気づいていないだけでそうさせる何かがあったからなのだろう。


とはいえ、『ブラシュ』の件はもう全てカタがついて何も問題はない……と言いつつも、仮面をつけていてなお嘘がつけない性質であるのか、そう言って偵察に出動せんとする俺を引きとめようとするその言葉から、俺の預かり知らぬ所で問題が発生したらしいことは理解できたけれど。


その事も含めて、アイちゃんのここまでの経緯をみんなで聞こうって展開になって。

そんなわけで大人しく、救世主さまの仰せのままにを地で行っていると。




いつの間にやら、そんなアイちゃんを皮切りに、救世主さま……ラルちゃんに会えた事への喜びを伝える時間になっていて。

聞くたび耳にするたびにラルちゃんが動揺しテンパり出すのが手に取るようにわかって。

であるならば、俺も参戦しようと声を上げかけたところで。


恥ずかしさがいっぱいいっぱいになったらしく、ついには辛抱たまらなくなったのか。

何故だかぺちんと俺を軽く叩いてから、強引に話題を変えるがごとく、ようやっと本題に入る。




「……ええと、その。どこから話せばいいのかな。話せば結構長くなるのですが。とりあえず結論だけ言うと、お、私の使い魔によれば、今現在の『ブラシュ』は、アイさまがいつでも何の憂いなく帰れる状態になっています。アイさまを心配しているご家族にも、使い魔リルの方から無事を伝えてありますので、急ぐこともありません。せっかくの機会ですので、学園での授業を楽しむことにしましょう」



長くなると言いつつも、とにかくまずはアイを安心させるかのように簡単にまとめるラルちゃん。

とはいえその直前まで『ブラシュ』での状況を目の当たりにしていた俺としては、いくらなんでも展開が早すぎだって思わず声を上げてしまう。



「いやいや、ちょっと待ってくださいって。水を差すようであれなんですけど。それこそ悪そうなやつらがたむろしてたと思うんですけど、その辺りはどうなったんです? あのいかにもなでっけぇやつ、おかえりいただいたとこまでは見てたんですけどね」

「ああ、うん。やっぱりその辺り、気になりますよね。……こうなったら一から話しましょう。幸い時間はあるのですし」



一応アイちゃんに気を使って曖昧な感じで濁したら、その場にいたラルちゃんにしか伝わらない感じになってしまったけれど。

そう言うことなら、エクゼリオ家の皆さんも交えて話すべきだろうと。


そろそろ夕食の時間ということで、初めての家族団らんを楽しんでいただろうノアレさんが呼びに来たのをいいことに、改めて場所を変えて一堂が介したところで。


ラルちゃんは仮面をつけたまま……今までのキャラとは少し異なる、低く渋くも口数の多い水先案内人のような仕草で、自分語りを……ラルちゃん自身のことを話しだした。




「……私は、部屋でじっとしているのがどうにも合わない性質でしてね。こうして仮面をつけ偽りの自分に身を包み、大抵夜に抜け出して数々の冒険を楽しんだものです。そのきっかけは様々でしたが……そのせいで、数々の異世界を渡り歩くことになりました。数々の物語を、めでたしめでたしで終わらせる。そんな命を、人知れず、自分でもしっかりと理解しないままに」



異世界を渡り歩く、のところでエイミさんが目を輝かせて反応していたのは。

やはり彼女も、同じような経験をしてきたからなのだろう。


俺としては、夜の散歩に出ただけで異世界へ……物語が始まってしまうところにツッコミどころ満載というか、やっぱりラルちゃんは主人公が服を着て歩いているんだなぁってしみじみ納得していたけれども。




「始め、この世界へ来た時は。今回ばかりはそんな使命とは無縁だと思っていました。何故ならこの世界へ来たのは、いつものように選ばれ導かれたのではなく、自分の意志だったからです。……まぁ、意志というには少々後ろ向きというか、逃げ場所を求めての結果だったのですが」



そう言って。

逃げてきた、のところで僅かばかりこちらへ視線を向けてくるラルちゃん。



……いや、ここでこうして邂逅している時点で分かっていた事ではあるんだけどさ。


やっぱり彼女は、故郷での俺と顔を合わせたくなくて。

故郷での俺が、彼女を選ばなかったからこそ、ここにいるんだろう。



俺としては、語らせてはくれなかったけれど。

それこそが幸いで、嬉しいことではあったのだけど。



そう思えば思うほど、余計に。

彼女が今ここにいることが、奇跡で。


それと同時に、不可思議でならないわけで……。




     (第74話につづく)









次回は、5月23日更新予定です。

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