第57話、短い付き合いかと思いきや、彼女のターンはまだ続くらしい
SIDE:サーロ
俺自身の内なる世界があるとして。
もう一人の自分とも言うべき、魂の分け身となる存在がいるってこと、オリジナルの野郎の種族性質とでも言うべきもので分かってはいたわけだけど。
魂が分かれるのって痛かったりしやしないのかなって、こうして分離させるのも初めての事で。
色々とうまくいくかどうか、不安ではあったんだけど。
案の定、存在を維持するための魔力……その容量について考えなしに、ある意味恐慌の中テンパっていたこともあって。
同行していたリルさんを置いて途中離脱といった失敗をしてしまったが。
「……」
とりあえず、問題なく戻れはした、らしい。
本体としてはずっと寝ていたにも等しかったんだけれど。
最後の方はほとんど、そこにいたような感覚に陥っていてずしんと沈むような倦怠感に襲われていた。
これが、魂の一部を剥がし分たれた影響なのかと恐れ慄きつつ、このまま朝まで寝こけたい気持ちに駆られたが。
リルさんを遠く彼方へ置いてきてしまっているわけだし、何か怒ってたみたいだからすぐさま戻らねばならないんだろう。
しんどいと言うかあんな形で戻ってきてもう一度分離できるものなのか不安はあったものの。
よっこいせ、とばかりに再び【チェインジング・レスト】の魔法を紡ごうとした、その瞬間である。
「おにいちゃん、起きて! ラルさまが! ラルさまがいくらよんでも起きてこないのっ」
「……あぁ、んん? 喉が細くなってるのか。いや、まぁいいか。ちょっと待ってて」
何だか声が出にくいというか。
水分を取らずにカラカラのまま身体を野放しにしていたせいなのか、妙に声が高いような気もしたが。
随分と焦っているようにも見えるアイちゃんを安心させるためにと。
恐らくラルちゃんは、リルさんに指令的なものを出していて手が離せないというか意識を手放せないのだろうと解説せんと立ち上がり扉を開け放つ。
「おにいちゃんっ! ラルさまがっ……って、んと。ええと、どなたですか?」
「おいおいアイちゃんのお兄さんに向かって実に切ないご挨拶じゃないか……って、やっぱり声おかしい? って、なんじゃぁこりゃあぁぁ!?」
ついにはアイちゃんにまでいてもいなくても変わらない空気のようなキャラだと認識されてしまったのかと凹みかけたけど。
そんな自分自身のセリフにいよいよ違和感を拭いきれなくなって自身を省みると。
どうあがいても俺じゃない、これからどこぞの夜会にでも出席するんですね、って感じの薄桃色のドレスを着た極々薄い金糸の髪の、もしも自分だったら自慢したくなるくらい(ちょっと混乱中)の美少女がそこにいて。
「……えっと。一応さっきまで小粋なモブキャラなサーロお兄さんだったはずなんですけども。魔法の失敗というかなんというか、風を纏いし謎の美少女になってしまった感じ、ですかね?」
「そ、そうなんだ。あ、だからこんなことしてる場合じゃないのっ。ラルさまがっ、いっしょにきて!」
「わ、わかった。わかったって!」
恐らくは、初めて使用した【チェインジング・レスト】の影響と言うか副作用的なものなのだろう。
リルさんの言うところの、共に偵察行動をしていた【風】の魔精霊な彼女の姿をとっているのに違いない。
オリジナル……故郷の記憶によれば、一度別人格に変わってしまえばしばらく戻れない、なんてこともあったようなので。
きっと、同じような現象が今の俺に起こっているのだろう。
何てことを説明してから、ラルちゃんなら多分きっと大丈夫ではないななと進言しようかなと思ったのだけど。
そんな、俺に起こった一大事などどうでもいいからとりあえず置いておいて、とばかりにぐいぐい引っ張ってくるので。
やっぱり内心で凹みつつも、可愛らしくも引っ張られるままにその後をついて行って。
そう言えばこんな夜も明けようといった時分にどうしてラルちゃんに宛てがわれた一室に用があったのかと伺えば。
『ブラシュ』……アイちゃんの故郷について話さなきゃいけないことがあったから、とのことで。
たぶんきっと、救世主なラルさま、の頼もしすぎる配下のリルさんが一日でその話さなきゃいけない事をどうにかしてくれているでしょうと。
まるで見てきたかのように(事実ギリギリまでは目の当たりにはしていたのだけど)自慢げに、少々意味ありげに口にしたその瞬間である。
というか、なんともタイミングよくラルちゃんに宛てがわれた部屋の前にやってきたかと思ったら。
何だか急がなくちゃいけない、大変なことがあったかのようにバターン! と扉が開け放たれて。
着の身着のまま(ひまわり色もふもふ、耳付きの夜着であった)ラルちゃんが飛び出してきて……。
SIDEOUT
(第58話につづく)
次回は、4月2日更新予定です。




