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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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55/116

第55話、見えないから本人すらも知りえない、風の歌姫の戦い



SIDE:サーロ



その攻撃的に思える属性はともかくとして。

リルさんの見た目は、俺の認識で言うなれば後方支援専門というか、戦闘においては盾役守り役が必須な存在に見えはしたが。


実に素敵な声でこの場は任せておけ的なニュアンスの言葉を宣言されてしまえば従う他なかったというか、そもそもの目的がこの『ブラシュ』の国で何が起こっているのか調べるためで。

常に明滅していて目立つ事この上ないリルさんが釣り役をかってでてくれるのならばそれに越した事はなかったし、いざとなったら今の俺と同じで戦力的撤退……恐らく間違いなくラルちゃんの元へ戻れば問題ないだろうと判断して。


俺は今のうちとばかりに、ブラシュ城の大きな城門に向かって突貫……その城内からわらわらと滲み出てくる黒い靄のような魔物たちと同じようにして、あっさりと城内へと進行、侵入に成功する。





(さて、リルさんは城の中にたくさん人が集まっているようなこと言ってたけど……っておぉぃっ!? いきなりこれかよっ)


思い浮かぶのは、偽悪的な雰囲気を醸し出して夜な夜な……ではなく。

朝も早くから自らの城に人々を招いていたグレアムさんのことだったけれど。


こんな夜更けに外からの侵入者があるなどとは考えてはいなかったのか。

堂々にすぎる程に大胆に、所謂城の玄関口……無駄に広く広く取られたエントランスホールにて、巨大な魔法陣らしきものを使った儀式的なものが行われているではないか。



(しかもこれは、えげつなっ。生贄を使っての召喚かよ。生贄は……この国の生きのいい……魔力に富んだ人たちか)


リルさんの言葉通り、確かに城の中にはたくさんの人々がごった返していたが、そのほとんどがあるいはグレアム邸の地下で見た光景と……いや、あっちはしっかりベッドに寝かされていたからまだサービスがよかった方なのだろう。

老若男女関係なく、エントランスホールのほとんどを覆う魔法陣を囲むようにして地べたに並べられ寝かされているのが分かる。

冷たく眠りに誘う装置は見当たらないが、その全ての人たちは意識がないようで。




(……いや、いるな。これみよがしに真ん中で祈りを捧げてるやつが)


と思ったけれどよくよく見ると、ちょうど地面が光っていない真ん中の所にいかにもな黒ローブをまとった何者か数人、蹲るようにして何やら祈っていた。


お揃いの煤けたローブを数えるに四人はいるだろうか。

きっと、あれだな。四天王ってやつかもしれない。

リルさんやラルちゃんほどに魔力を視ることはできないけれど、そのローブと同化してしまって見えにくいそれは、確かにこの水の都の王城に座すには宜しくないように思えてしまう、【闇エクゼリオ】の魔力をまとっていて。



(魔人族……ってわけじゃないのかな。中々に一人一人がやりそうではあるが)


それこそ、初めてラルちゃんと出会った時のような衝撃、凄みのようなものまでは感じられない。

まぁ、故郷でも大昔は魔人族も悪の親玉の愛称のような言われ方をされてきたが、最近の風潮ではとにかく魔法に長けた凄い一族という認識であって、そもそもがイメージしやすい【闇エクゼリオ】の魔力に愛されしものばかりではないはずなので。


きっとこの世界の闇の魔精霊、魔物、あるいはまだこの世界であったことがないけれど、ダークエルフ等々の闇の魔法が得意な一族であって。

恐らくは、闇らしく闇に紛れて密かに時間をかけてこの水の都を裏から支配せんとし、ここに暮らす彼らを利用して闇の一族の彼らの神輿となるような『何者か』を召喚しようという腹積もりであるのだろう。



(リルさんみたいに気取られるかと思ったけど。杞憂だったかな。こうなってくればやることは一つ、でしょう)


見た感じあまり猶予はなさそうだった。

感覚的に、生贄の魔力を吸い取った魔法陣のその下から、それこそとんでもないナニカが今にも飛び出してきそうで。

その下手人たちが俺の存在に気づいていないことをいいことに、さっさと魔法を発動することにする。




(……【風ヴァーレスト】、【時リヴァ】よ!

そこに在る者達を彼方知り得る処へ誘いたまえ! 【リィリ・バッシ】っ!!)



風を扱うものらしく音もなく。

心内だけでそう唱え、最早こなれてきたような気がしなくもない【リィリ】の魔法を発動する。


何だかやばそうだからすたこらさっさ逃げるためのものでも、きゃつらの企みを阻止せんと、闇色ローブの者たちでもなく。


ほとんど色のない、リルさんのような、シャボン玉めいたそれは。

風に乗って拡散、分裂し、いくつかに別れ、いよいよもっても寝たままであった生贄の方々に優しく触れて弾けて消える。



するとその瞬間。

パチンとシャボン玉が消えるのと同じタイミングで当たった方たちの姿が綺麗さっぱり消えていく。


【リィリ・バッシ】は、受けたものをここではないどこかへ障害物なども超えて飛ばしてしまう魔法である。

その移動距離はそれほどではなく、飛ばされた彼らは城の外、この国のどこかへさしたる衝撃もなく飛ばされている事であろう。

ランダム性の強いものであるので、どこへ飛ばされたかは風の神のみぞ知る、ではあるが。



(っしゃあ、どんどんいくぜっ! 【【【【【【リィリ・バッシ】】】】】】っ!!)



ささっと闇色ローブたちの様子を伺うと、肝心の生贄がどこかへ行ってしまった事にまだ気づいていないようであったので。


俺は今のうちに、とばかりに。

間断なく矢継ぎ早に、怒涛の勢いをもって連続でシャボン玉を生み出していって……。



     (第56話につづく)








次回は、3月27日更新予定です。

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