第54話、自覚ないままに、息を吸うみたいに救世する
(……【火】、【闇】、【金】よ! 今ここに集いて昇華し、浄化し、あるべき姿へ還せっ! 【デルカムラ・レイバック】っ!!)
「……りかぁっ!?」
かっとなって、言葉では表し得ない感情が、その身を示す炎のように燃え上がる。
視界が、闇色に覆われたのはほんの一瞬のことで。
ラルは、我を忘れ暴走しているように見えて。
その実冷え切った無機質な金属のように冷たく冴えていた。
【風】の魔精霊の少女の行方を案じていたのは揺るぎない事実である。
目を少しでも離せばどこかへ消えてしまいそうなくらい、風の魔精霊らしさ満載で、自由奔放に見えた彼女。
心配で心配でたまらなくて、今すぐ見つけに行きたかったけれど。
魂に刻み込まれていると言ってもいい、生まれながらにしての救世主の性が。
ラルの目前でずっとその存在を主張していた魔法陣から生まれでんとするものが危険であると。
この世界そのものに悪い意味で影響しかねないと気づいてしまったら最後、ほとんど条件反射の無意識のままに取って置きのひとつ、恐らくはこの世界でラルくらいしか使う者がいないであろう、三種合成魔法を発動していた。
組み合わせがいくつかあるのだが、【火】にとみに愛されしラルにとって軸となるのは、際限なき高火力の【火】魔法である。
【デルカムラ】と冠するそれは、しかしラルの一族に連なるものしかまともには扱えないとされていて。
ラルの魔力から生まれたいち使い魔でしかないリルが、果たしてそれをうまく扱えるのか。
そう思い戦々恐々して抗議の声を上げかけたリルであったが。
リルがあまりにも、スムーズにラルとシンクロしていたから。
ここではない遠くから見ていたことなんてとうに忘れ去って、すっかりそこにいると思い込んでいたから。
気を抜けば一瞬で暴発し粉みじんになってしまうかもしれないと焦りに焦るほどの魔力が、リルの内に注ぎ込まれていく。
それに耐え切れず儚く散るのが先か、ラルのイメージ、想定通りに最上級魔法が発動するのか。
全てはリルの頑張りにかかっていて。
だけどラルは、リルがそれを扱えないなどと、それこそ微塵も思っていなかったから。
「こなっ……くっそおぉぉぉぉ!!」
そんな過剰にも過ぎるラルの信頼に応えるように。
リルは、景気づけだとラルがいつまでもずっと一番のお気に入りとして心内に登録している声色で叫び。
数百の触手を一つに振り絞り纏めるようにして、その全てをなかったことにする……あるいはあるべき姿に還す魔法を解き放った。
……その瞬間。
捻じれ混ざり合って打ち出された赤、黒、金色の……極太の光条がその場を支配して。
まずはリルにしてみればどこにあるかも分からない耳、聴覚が奪われて。
反動により、逆方向へと打ち出される感覚。
何とか堪えようとするも、今の今まで見えていた視界が焼かれ、ラルになんの情報も送れなくなってしまって。
気づけば、打ち上げられていたはずの身体の感覚すらなくなっていた。
数ある【デルカムラ】の魔法の中でも、攻撃性の薄い【レイバック】は、全てを還す、『なかったこと』にするもので。
やはり、我を失っているようでいて状況にあった魔法を行使しているあたり、冷静な部分は確かにあっただろうが。
どうやら、その魔法は。
その魔法の余波は、リル自身にまで及んでいたらしい。
触手の先から三種の魔力に浸され、あるべき姿へと、ラルの魔力へと還っていく感覚。
「……また、呼んでくれよなっ」
(……あっ)
どうやら、ここまでのようだと。
であるならばせめて、主の大好きな声色で格好つけなければと。
そんならしい台詞を残して、幕が降りるかのように視界が完全に闇に染まったその瞬間であった。
ラルがようやく我に返った……何だかんだいって結局亡失していて、勢い余ってやりすぎてしまったことに気づかされたのは。
(しまったっ。結局偵察らしい偵察できてないじゃんっ! 一体お城の中で何が行われてたんだろう……)
やりすぎてしまった結果、その後どうなったのか分からなくなってしまって。
実はラルのあずかり知らぬ所で、自覚のないままにその全てが解決してしまったことでさえも。
当然のように、気づくことはないのであった……。
SIDEOUT
(第55話につづく)
次回は、3月24日更新予定です。




