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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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52/116

第52話、火の星の人のジョブは、殴りヒーラー



SIDE:ラル



あくまでもラルは、リルの視点を借りてそこにいるだけで。

出来ることと言えば、どうこうして欲しいと言う希望をリルに伝えるのみだったのだが。

そんな、指令めいた言葉から大きく外れない程度に、正しく自由奔放に。

その発する声らしく、リルは好き勝手に行動しているようにも見えた。



ここまで長い間具現して、行動を任せていたのも久しぶりのことであったから。

リルってこんなキャラだったっけかと。

あるいは、リルなりに彼に……サーロになりきっているのかなと。


いいような悪いような、複雑な気持ちでラルが大画面で繰り広げられる、リルと色が無いながらも息を呑むほどに美しい風の魔精霊の少女との、偵察と言う名の冒険を見守っていると。



いよいよもって辿り着いたのは。

水の都と呼ばれているらしい、風光明媚な国といった雰囲気はまったくもって感じられない、意外と数多くの世界、場所を冒険しているラルにとってみれば、たまに体験したことのあるような……一言で言い表すのならば、完膚なきまでに力と暴力によって支配され占領されてしまっている、物語的に言えばダンジョン化してしまっていると言ってもいい、『ブラシュ』の街であった。



すっかり風の少女の腕の中を、さいごの場所と決めてしまった……ではなく、落ち着いてしまったリル。

そのせいもあって、好奇心旺盛な風の魔精霊らしくいろんな事が気になるのか、怪しく闇色に聳える王城に近づくたびにあちこち見回してくれるから。

その度視点が切り替わって、おかげで今『ブラシュ』で起きているらしい事態を把握することができて。




(……お城に凄く魔力が集まってる。人が多く集まっているってのもあるけど、これは)


ごくごく最近、似たような感覚を味わったことがある。

それは、サーロを追いかけてグレアム邸に向かわんとした時だ。

その時は、中々に想像しえない……『魔導機械』の体験会という体でたくさん人が動かないままに集まっていて誤解ではあったわけだが。


同じように予想するに、恐らくは城の中で多くの動かないままの魔力を元手にして、何かを生み出すか呼び出すかするつもりなのだろう。

故にアイは、その前にこの国を抜け出した……誰かに出奔するように、諭されたのかもしれない。

ラルからすれば、あんなに幼いアイを一人で逃がさなくてはいけないほどに切羽詰っていたのかと、言いたい事はたくさんあったけれど。

今回は、どうやらその予想は外れていなさそうで。



「来るぞっ、かなりの速さで向かってくる!」

「えっ? ……って、なんだありゃぁ。【エクゼリオ】の魔物か?」



まるでそれを証明するかのように、闇の魔精霊……いや、魔物と呼ぶべきか。

ガス状の、物理攻撃が効かなそうなモノたちがわらわらと沸き出してきた。


リルが、相変わらずの素敵な声で注意を促すと。

見た目にあまりにそぐわないように思える(全力で自身を棚に上げて)蓮っ葉な声を上げて風の少女がびくりと跳ね上がるのが分かる。



「お出迎えの話し合いって雰囲気は皆無のようだなっ。よし、ここは俺に任せて先に行くのだっ、風の姫よっ」

「あ、うん。それじゃあお願いするよ」



そんな事を考えていたからなのかはともかくとして。

意を汲んだらしいリルが、一度は言って……あるいは聞いてみたかったそんな言葉を口にして。


一人で彼女が行動したのならば、本来の目的を誰にも見とがめられずに遂行できるだろうと判断したらしく、自らふわりと浮いて前に出て、闇色した魔物たちへと向かっていく。



突然の別行動に、ごねるかと思いきや、彼女も一理あると思ったのだろう。

実に素直にあっさりと、正につむじ風のように魔物たちにも気取られず、縫うようにして駆け出し……飛んでいって。




「……さて、俺さまの百烈触手のさびになりてぇやつは、どいつだい?」



果して気づけば数十はいるであろう闇の魔物たちにリルの言う攻撃は効くのか、とか。

どこかで聞いたことのある技の名前だな、とか。

流石に彼はそんな喋り方はしないんじゃないかな、とか。

突っ込みどころは満載だったけれど。


ラルが何か言う前に、物言わぬまま闇色の靄たちがにじり寄ってきて。

目にも止まらぬ速さ……余りにも早すぎて残像が見えて技名の通り生成り色の触手が数百に増えたかと思ったら、初めの杞憂もなんのその、恐らくピンポイントに闇色の魔物たちの核らしき場所に寸分の違いもなく命中したらしく。



バスン! と、随分と軽い音がして。

なんの感慨もなく一撃のもと、ラルがどんな魔物であるのか『識別』系統の魔法を唱える暇もあらばこそ。

その場には誰もいなくなっていて。



(……やるなぁ、リル。こんなに強かったんだ)

「りかばっ」



気分を盛り上げてくれる係と回復役ばかりで、あまりリルが戦っている場面を目の当たりにしたことはなかったけれど。


今更ながらリルの物理攻撃は半端ないって使い魔たちの間で有名だったなんて。

やっぱり今更過ぎる鳴き声を上げるリルに対し、ラルはしみじみと、感心しきりでいて……。



       (第53話につづく)









次回は、3月17日更新予定です。

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