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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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51/116

第51話、名乗りをあとに置いたのは、いつだってその機会があると思っていたから



SIDE:サーロ



そんな風に、『ブラシュ』へ向かうための瞬間移動の魔法、【リィリ・スローディン】についてあれこれ考えているうちに。


未だ慣れる事のない、自分が一度魔素、魔力そのものに分解されて世界に溶けいく感覚に身を委ねていると。

七色のまだらのごとき視界が徐々に晴れていき、『ブラシュ』の外壁らしきものが見えてくる中。

最初に感じたのは、当たり前のようにそこに落ち着いている、リルさんの感触だった。



鬼火が翼もないのにふわふわ彷徨うように、赤く紅く明滅し続けているリルさんもその不思議な力で空を舞うことができるはずなのだけど。

どうやら完全に俺というか、姿の見えないもう一人の自分の腕の中に落ち着いてしまったらしい。


姿が見えないのならば、前回来た時には当然足を踏み入れることのなかったブラシュのお城の内部にでも行ってみようか、そこなら何か情報を得ることが出来るかも知れない、なんて考えていたのだけど。


どう見てもスライム系の魔物にしか見えないリルさんは、今いるフィールドを彷徨うならばともかく、

城内どころか城下町に入っただけでも大層目立つこと請け合いであるから。

とりあえずのところ、門兵さんが立っているであろうアーチ型の城門からは結構離れた所に降り立ったわけだけど。



詰所らしきものが備え付けてあるその場には、ぱっと見た感じそんな兵隊さんどころか、外壁の向こうへ入るためにと列をなす、旅人や商人、冒険者の類も見当たらない。

というか、何だか雲行きもどんよりしていて怪しくて、この世界の代表的な大国のひとつであるからして、前に来た時にはたくさんの人の気配がしたというか、これくらいの距離感でも人々の活気、ざわめきが感じられたのに、それすらも感じられなかった。



「なんだか、えらく静かっていうか……嵐の前の静けさなのかな。どうする? リルさん。当初の予定としてはこっそりあの向こうに見えるお城にでも行こうかなって思ってたんだけど」

「……城。確かに向かうとするならそこだろうね。何故かよく見えないというかわかりにくいのだが、大勢の人、魔精霊などの気配がそこに集まっているようだ」



やはりリルさんはラルちゃんの使い魔的存在であるのだろう。

俺だと直接目にしないと見えない魔力が、尖塔だけちょっと見える城内に集まっている事に気づいたらしい。


であるならば是非もない。

さっそくとばかりに、リルさんをそのまま抱えた状態でやっぱり誰もいなかった城門を向けて城を目指すことにする。





「……ここは、【ウルガヴ】に愛されし人と魔精霊が暮らす国だと聞いたのだが」

「そうですね。別名水の都って言うくらいだし、上水道を使って舟で移動することもできるみたいだけど」

「その割いは随分と【ウルガヴ】の気配が希薄だな。むしろこれは……【エクゼリオ】の魔力か? 思っていたより多い気がする」

「闇、かぁ。言われてみればそうかも」


あまりの静けさに闇を想起させる陰鬱なものすら感じる、とは。

ラルちゃん自身、火の次くらいに闇の魔力が好きそうだったから口にはしなかったけれど。


その場に響くのは、そんな俺たちの会話のみで。

話題に上った移動手段のひとつである、舟すら見えず。

城へと続く大通りを歩いているはずなのに、出店がずらっと並んでいるというのに、人っ子一人いやしない。


はっきりいって、異常とも言える光景である。

まるで、これからこの地に何かのっぴきならない事態が起こりそうだからと、軒並み人々が避難しているようにも見えて。



その避難先こそが、思ったより広く遠かったのか、じりじりと大きく見えてきた城であるのか。


エクゼリオ】と言うフレーズが、実の所ここへ向かう前に少々話題にも上がった『魔王』的存在を想起させて。

なんとはなしに、みんなで城に集まってかの者の召喚の儀式でも行っていいるんじゃないかと、荒唐無稽とも言える妄想が俺の思考を支配した、その瞬間である。




「……来るぞっ、かなりの速さで向かってくる!」

「えっ? ……って、なんだありゃぁ。【エクゼリオ】の魔物か?」


相変わらずの、鼻につく素敵ボイスによる鋭い声。

そんなリルさんの触手伸ばす先を見やれば。

別に隠れていたわけでもないからして、しっかりこちらの存在に気づいたものがいたようだ。

お城の壁からにゅるりと吹き出て湧き出るみたいに、複数の黒いもや……ガス状の魔物たちがこちらへ、というかきっと目立つリルさんに向かって近づいてくるのが分かる。



「お出迎えの話し合いって雰囲気は皆無のようだなっ。よし、ここは俺に任せて先に行くのだっ、風の姫よっ」

「あ、うん。それじゃあお願いするよ」


いつか言ってみたい台詞を、実に得意げに……よりにもよって俺の声で朗々と発し、俺の手元を離れ勇ましく向かっていくリルさん。

言われて気づく、結局何だかんだやってて名乗っていなかった、という事実。



でも、その時は。

また落ち着いたら改めて名前を考えて名乗ればいいかな、なんて軽い気持ちでいて。


もう会えなくなるかもしれない、だなんて。

当然、これっぽっちも考えてはいなかったわけだけど……。


SIDEOUT

    


       (第52話につづく)















次回は、3月14日更新予定です。

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