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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第5話、度し難き愛の怪人からは結局のところ逃げられない



「……妙な魔力の気配がすると思えば自ら籠に入りに来るとは、おかしな子猫チャンだ」



舌舐めずりする勢いの、喜悦のこもったカンに障る鉄錆のような声。

どこから現れたのかも分からない哀れな少女は、闇を棲まわせる男に気に入られてしまった。

直ぐにここから連れ去られ、想像を絶する酷い目に合わされる事となるだろう。


当の本人……ラル以外の者達はそんな風に震えていたが。

一方のラルは、安堵の息をついていた。


一目で、あるいは一声で。

自身の怖がる相手ではないと分かったからだ。


よくよく見ると黒、と言うよりその髪は灰色で。

欲に塗れたざらざらしたその声が、似ても似つかなかったからだ。

むしろ、一瞬でも勘違いしそうになった事を腹立たしい、なんて思っていて。



「ふふ。これは珍しい。灰色のお猿さんですか」


ニヒルな笑みをイメージしつつ、手を叩く仕種。

子猫に例えられたのは初めてだったので(と言うより、こっちの世界にも大好きな猫がいるのかとほっこりして)、にゃんにゃんと返そうかななんて内心では思いつつも。


騎士……あるいは執事のイメージに合わないので。

反射的にについて出たのはちょっとわざとらしさも感じられる挑発の言葉であった。


これぐらいの挑発で怒り出すようなら器が知れる、なんて思惑はラルには微塵もなく。

仮面の従僕……そのキャラ設定に従ったわけなのだが。



どうやら相手も周りも、そんな苛烈な反応が返ってくるとは思ってもみなかったらしい。

僅かな時、辺りがしん、と静まり返って。



「ハハハっ。いいね。気が強いのはキライじゃない。早速その素顔、拝ませてもらおうか。……お前達! ボクの部屋へ運べっ」


灰髪男の一言とともに、現れたのは典型的な盗賊スタイルの男達数人。

その中でも、むしろ頭を張っているように見える体格のいい禿頭の男がへい親分と一声上げて、牢屋の鍵を取り出した。


あれさえ奪えばいいんじゃないのと、すぐに気がついたラルであったが。

相手の人数も分からないし、こっちには人がたくさんいる。

それに、アイの前で悪い人に制裁を加えるのも、なんとなく違う気がして。

ラルは、口元に笑みを湛えたまま入ってきた男たちになすがまま囲まれ、連れ出される。

当然アイはそんなラルに対して血相変えて追い縋ろうとする。


(心配は無用でございます、アイさま。守りの者をつけますので少々お待ちください)

「……っ」


唇に添えた人差し指と、アイの心中に流れ込む、芝居がかった様子のラルの【念話テレパス)】。

それでも心配げにアイがラルを見送っていると。

一団が見えなくなった途端、部屋の中ほどに急に明かりが点いたかのように橙色の不定形の生き物が現れる。



「り、リカバースライム?」


誰かの上げた言葉通り、いくつもの触手を生やしたそれは。

表現のできない鳴き声を上げつつも。

つぶらな瞳でアイの周りをくるくると浮かびながら回っていて……。


SIDEOUT



               


              ※      ※      ※





SIDE:サーロ



俺……サーロ・バレスにとって、ようやく慣れてきた異世界生活。

のんびり自由気ままな『冒険者』の日々。


その日は、それら全てを引っ掻き回して滅茶滅茶にされそうな……いやに具体的な予感のする目覚めだった。

今日も日々の糧を得るために頑張ろうと言う気力を根こそぎ持って行かれそうになり、そのまま二度寝してしまいたくなるくらいには。

 


原因は、時には俺を助け、あるいはこうやって安眠安寧妨害してくる『世界が発する音』にあった。

それは別名、魔精霊ませいれいの声なんて呼ばれるもので。

今俺のいる世界、【カントール】を創ったとされる者達の生命力、魔力の残滓でもある。


よくある異世界転生補正により、特別その声を聞いたり、色として認識する事に長けている俺にとって。

彼らが騒ぎ立てテンションが上がり、何かを心待ちにしているかのような雰囲気が、宿の中にいても聞こえてくるのだからたまらない。



面倒くさい能力をもらったものだと独りごちつつ。

支度を済ませ一端の冒険者に見えているはずである装備一式を身に付けると、朝ご飯も摂らずに宿を飛び出した。



くっそう。ほんとなら一日の決まり事として宿の看板娘のキャシーちゃんとの他愛のない世間話を肴に有閑な朝食タイムを満喫しているはずだったのに。

なんて思いつつも、その足を所謂『冒険者ギルド』へと向ける。




「……おいおい」


その道中、精霊たちの騒ぎが大きい方へ顔を向けると、一部の空が赤く染まっていた。

あの方向は、『深澄の森』だな。


入口だけなら俺が今、本拠地にしている『ラスヴィン』と呼ばれる街からほど近い広大な森だ。 

モンスターは勿論、盗賊紛いのやつらがアジトをこさえている、なんて噂も聞いていた。


ちょうど、そんな森を覆うように赤色……【カムラル】の精霊達が集まってきている。

俺にも見えるくらいなんだから、相当量集まっているんだろう。

 

意識して声を拾うと、出番を呼ばれるのを今か今かと待っている感じだろうか。

……などと予測していると、半分くらい森の中に吸い込まれていくのが分かる。



早速、俺が『この世界に飛ばされる原因』となったお方がやらかしたらしい。

あれだけの魔力量を攻撃で使ったら、森がなくなるんじゃなかろうか。



成る程。これは急いで向かわなくちゃいけない。

魔精霊の声はともかく、あの魔力の色は見えるやつは見える。


本人がこの世界を征服したい、なんて意志があるなら話は別だが。

少しは力を抑える事を覚えてもらわないと。



(……自由気ままは、もう無理そうだなぁ)



俺は内心でそんな風に独りごちつつ。


急ぎ足でギルドへと駆け込んでいく……。




          (第6話につづく)









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