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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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第41話、結局のところ、追いかけてきてくれたのがうれしいから




SIDE:ラル



故郷で、自身がこわれていくような、終わってしまうような、そんな『音』を聞いてから。

それを認めたくなくて、その身一つでこの世界へやってきたラルであったから。

本来の自分と同じようで、今の自分自身がべつのものであることに気が付くのが遅れてしまった。



……そもそもが、故郷において世界の均衡を保つためにと人柱になったのだから。

こうして、自由に異世界にまであてのない逃避行ができている時点で、しっかり説明されなくとも気づくべきであったのだが。


簡単に言えば、そんなことにも気づけないくらい拗ねて。

何もかもどうでもいい、なんて思ってしまっていたのかもしれない。



その事に気づかされたのが、故郷から逃げ出す一番の理由となった当の本人によるものであるとは何たる皮肉か。

とはいえ、当の彼も今のラルと同じく本人のようでいてそうでない、所謂この世界における『彼』である。



黙って違う人……少女イゼリの化けてつかず離れず傍にいたのだと、一見するとひどく申し訳なさそうにいいわけされた時。

何よりも先にラルが思ったのは、なんともあいつらしいといった、呆れを含んだ愉快さであった。



何せ、本当の自分自身のことを、『オレは男だ』だなんて言い張って。

救世主の責を負うのが嫌で頑なに否定し続け生きていたラルに対して。

それならば自分が変わりとなろう(実際のそう口にしたわけではないけれど)とでも言わんばかりに。

ちょっと目を離した隙に使命を負うに相応しき無垢なる少女に『変わって』しまうくらいである。


この世界の『彼』であると確信したその瞬間から。

あいつならばそれくらいのことはしてくるだろうと、どこか確信めいたものをもっていたのだ。



何だか自棄になってどこへなりとも消えます、だなんて態度を表してはいたが。

そんな殊勝なこと言ったって騙されないぞ、そうやっていつもみたいに構って欲しくてからかってるに違いないと全面的に流すことにして。(案の定、そのまま放っておいたらどこかへ行くこともなく、それこそ従者のごとくついてきたので、内心ではそれ見たことかと思っていたわけだが)



ラル本人としては、何だかよくわからないままにサーロをまずは糾弾する感じになっていたのをとりあえず置いておいて。

イゼリがギルドの依頼をお金を受け取ることもせず(ラルとしてはここが一番重要)、依頼を完遂することもできずにグレアム邸から出てきてしまったということで。

再び皆で連れ立ってグレアム邸に舞い戻ることにしたわけだが。



その実、忠実なるしもべな『役』を止めようとしないサーロに色々言わなかったのは。

ラル自身、故郷から取るもの取らず逃げ出してしまったこと、その理由について聞かれたら困るというか恥ずかしくてまた逃げ出したくなってしまうから、というのもあった。


それでも、今となってはそこにいる(ひどく警戒しながらご主人様の後をくっついてくる従属魔精霊のごとく)サーロのことを許容できているのは。

何だかんだいって追いかけてきてくれたという安心感と、見つかっちゃったのならばもうしょうがないといった彼に対するいい意味での? 諦めがあったからとも言えて。




「もう~。なにさなにさぁ。なんでボクがあやまりに行かなくちゃなんないの? サロにぃが全部悪かったんだで、いいじゃん」

「ラルさんのあまりの寛容さに、同意する点はなくもないですが、それはそれ、これはこれです。疑いのある行動をしていらっしゃったとはいえ、いらぬ嫌疑をかけてしまったのも事実、少なくともギルドとしての謝罪は必要なのです」

「……まぁ、十二分に怪しかったデスからね、父様は。ワタシが言うのもナンですけれど」



そんなサーロを殿に、ラルを囲むようにして一行は進む。

このウエンピの町に初めて訪れた時とは違い、町を発展させた代表の娘にも等しいノアレが共にいるせいか注目され具合が違うような気がした。


思えばラルのように逃げ出してしまったイゼリの影響で不穏というか、いかにもな視線を集めることになったわけだが。

ノアレ自身結構有名人らしく、今のような好意的なものばかりであったのならば彼女自身との出会いもなかっただろうし、サーロに見つかってしまって避けて逃げることも諦めてなかっただろうと思うと、ある意味では今のこの状況はイゼリのおかげ、とも言えて。



「しかし、イゼリさん。せっかく受けた依頼なのですし、完遂できるのならすべきだと思いますよ」

「は、はいっ。そうだよね、ラルさまの言う通りさ。せっかくだし受けたいと思ってたんだよ、けんこーしんだん?」

「……相変わらず調子がいいというかなんというか。ああ、でも実際どうなんです? 依頼を継続できそうですか?」

「ええ、父様のことだから多分それホド気にしてイナイというか、定員を絞って日々依頼は出しているヨウですので、問題ナイと思いますヨ」

「あっ、だったらわたしも参加したいなぁ。さっきおにいちゃんやってるの見てて、楽しそうだったし」



今更仮面もって取り繕うのもなぁと内心では思いつつも。

だからといってみんなの前で素になるのも、意識外を除けば恥ずかしいから。

現在進行中なサーロのように仮面の従僕になりきって、それでも自身のこだわりを示すと。


何故か背筋をぴんとして、全ての答えは『はい』しかないとばかりに頷いてみせるイゼリ。

それにリーヴァが少し呆れたように、得意げにノアレが、うれしそうにアイが続けるから。

せっかくだからみんなでお願いして、受けられたら『健康診断』を受けよう、なんて展開になっていて。



「……ふむ、雨降って地、固まる、かな」


ある意味サーロらしいそんな呟きも。

引き続き、実に華麗にスルーされているのが。

背中越しでも分かるくらいには、何だか哀愁が漂っていておかしくて……。




     (第42話につづく)








次回は、2月10日更新予定です。

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