第40話、あまりにも『おまかわ』だから、気持ちよくない感じになるのも仕様がないのです
SIDE:サーロ
もうどうにでもなぁれ~、などと達観していたわけじゃあないけれど。
何故だか穏やかな気持ちで判決を下すであろうラルちゃんを見つめ伺うも。
仮面越しなのに分かってしまうくらいにはきょとん、としているものの、ろくでなしな俺に怒り心頭な感じはまったくもって感じられなかった。
「……ふぅん。なんだ。そんなところまで同じかぁ。今更っていうか、知ってるっていうか、べつにそれくらいで嫌ったりはしないよ。っていうか、知らないとこでこっそり見守られてる方が嫌なんだけど。そんなことされるくらいなら、近くにいてもらったほうが全然いいし」
であるからこそ。
卑怯にも欲しかった言葉をいただくことに成功してしまう。
彼女ならきっとそう言ってくれるだろうと期待していた俺の、何と浅ましいことか。
これなら、何かあるたびに理不尽だけど正しくもある折檻を喰らう方がよっぽどマシな気がしてならない。
それでも、内心で口にした通りに。
こんなんだったらいっそのことどこへともなく消えててしまえばいいだなんて思えなくなったのは。
やっぱりもう既に手遅れ……そんなラルちゃんに完膚なきまでに叩きのめされやられていたからなのかもしれなくて。
「主サマ、本当に心が大海のヨウに広いですね。主サマと契約して、本当に良かっタと思えマス」
「……まぁ、わたくしも含めて惹き付けるものがあるのは確かですわね」
「なっ、急になに言ってるのさ! ふたりして! っていうか本気でオレに従属契約する気なのかっ?」
「何を今更、デスよ主サマ。契約の証はもうココにありますし」
もはや俺以上にぞっこんらしいリーヴァさんとノアレさんの援護射撃……のつもりはないんだろうけれど。
ノアレさんなんて、そう言ってとっても良い経験をさせてもらえました、とばかりに。
魔導人形がその存在を維持するための魂……魔力の込められしコアがあるという胸のあたりを抑え始めたから。
多分この世で一番素敵な場所で拝見できたキッスのその瞬間を、ラルちゃんは思い出してしまったのだろう。
再び仮面を忘れて素になってあたふたするのは、もはやその本質を隠す気がないくらいに、お約束と化してしまっていて。
「ラルさま、やっぱりそっちのおしゃべりのほうが似合ってると思うの」
「そうだねぇ。無理してないありのままの感じがとってもかわいいね。いっそのこと仮面もとっちゃえばいいのに」
「……はっ。も、もう! みんなしてなんなんですかぁっ! 褒めたって仮面は取りませんよ、恥ずかしいですしっ」
いつの間にやら、顔を突き合わせての尋問……ではなくお話し合いは終わってしまったのだろうか。
みんなで集まればかしましいとはよく言ったもので。
流れはすっかり、ラルちゃんを崇め奉って称える感じになったらしい。
褒めそやされ持て囃されて首筋まで真っ赤にしているラルちゃん。
そんなところも分かりやすいというか、純粋に過ぎるだろ、などと思いつつも。
このままなんのお咎めもなく、こんな俺以外のいろんな世界にばらけてるだろう『他の俺』に自慢したくなるようなやりとりまで見させていただいて。
なにかものすごいツケが。
とてつもない反動があるんじゃなかろうかって。
ぶるりと背中に氷を落とされるくらいに、怖くなったのは確かだけれど。
今この瞬間だけは。
調子のいいことに、きっと何事もなくこのような日々が続いていくんだろうな、なんて思わずにはいられなかった。
だって、何度も言うけれども。
何せこの世界は、波乱万丈なラルちゃんの人生の休憩所……かっこよく言えばとまり木のようなものなのだから。
それに何よりも。
何かたいへんなことがあったとしても、それらをすべてひっくり返す『力』がラルちゃんにはあるようだから。
きっと、こんな微笑ましいノリで、何があってもあっさり乗り越えていくんだろう。
……まぁ、その時は俺も僭越ながらこっそりきっかりフォローさせてもらいますけどね。
幸運にもそばにいる許可をいただいた(俺としてはもうそう思っちゃってるわけだけど、いいんだよね。今更『やだ、近づかないで』って言われても拒否しますよ)わけですし。
全力をもって、救世主な彼女の華麗な羽休めを近くで実況……ではなく。
謳歌するお手伝いをさせていただく所存であります、まる。
SIDEOUT
(第41話につづく)
次回は、2月7日更新予定です。




